産業組織論おすすめテキスト教科書(初学/大学学部/大学院) – わかりやすい入門から応用本までランキング

産業組織論はミクロ経済学の応用分野として主に企業の行動に焦点をあて競争戦略を考える際、各社はどのような戦略を採用するかを考慮して意思決定を行うことを行います。理論的にはゲーム理論などのツールも使われ、実証の場合でもミクロの計量経済学、構造推定などの知識が必要となります。

一例をあげるだけでも市場構造と市場支配力、 独占寡占モデル、垂直統合、価格差別、カルテル合併、参入、技術進歩、研究開発、価格差別、ネットワーク、プラットフォームビジネスなどを扱うことができます。

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産業組織論のおすすめ教科書

産業組織論と一言といっても多岐に渡る分野になり、伝統的な産業組織を扱った教科書から、ある分野に特化した産業組織の教科書があります。自身の学習箇所、レベル(学部初級/上級、大学院向け)を確認して読んでみましょう。

 

産業組織のエッセンス

 

明城 聡 (著), 大西 宏一郎 (著)
出版社:有斐閣、出典:出版社HP

入門のテキストととしてですが、基礎的な産業組織論の背景から、現在のビジネスにおけるトピックまでカバーできる1冊です。現時点でもっともバランスが取れた入門テキストとなります。

【本書の紹介ページも確認する】

 

 

経済学部の授業を受けたことのない方には、「産業組織」という言葉に馴染みがないかもしれないが、市場構造と企業行動の関係を明らかにしたうえで、競争政策の在り方を論ずるのが、本書が扱う産業組織論という学問である。競争政策とは、市場取引での自由かつ公正な競争を促進し、市場の効率性を高めることに主眼をおく経済政策であり、独占禁止法の運用とも密接に関わっている。

 

ここでは具体例として携帯電話市場を取り上げて競争政策がどういったものなのかを考えてみよう(1)去る八月九日(二〇二二年)に、公正取引委員会(以下、公取委)大手通信事業者NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)のスマートフォン(スマホ)の販売実態を緊急調査すると発表した。これは二〇一六年から概ね二年ごとに行われている「携帯電話市場における競争政策上の課題についての調査」に続くものであるが、新規の回線契約を結ぶ際にスマホを一円で投げ売りする行為が家電量販店やキャリアショップなどで横行している現状を受けてのものだ。

 

一般的に事業者が商品を原価割れするような低価格で販売する行為は独占禁止法で禁止される不当廉売に当たる。なぜ、不当廉売が違法になるかというと、当該行為によって他の事業者がまったく利益を得られずに排除されてしまうと、長期的には市場の効率性が損なわれてしまうからである。通常、不当廉売というのは実行する側も大きな痛手を伴う。短期的には採算を度外視した価格に耐えられても、長期的な赤字には耐えられないため、不当廉売は競合企業を市場から退出させることが前提となる価格戦略である。したがって、経済学では不当廉売のことを略奪価格と呼ぶ。

 

ところで販売店がスマホを一円で投げ売りできる原資はどこにあるかというと、それはもちろん、通信事業者からの販売奨励金(回線契約の実績に応じて販売店に対して支払われるリベート)であり、元をたどれば契約者の回線利用料からの利益である。携帯電話は、スマホなどの端末購入時に回線契約を結ばなければ商品価値を成さないが、これはタイイングと呼ばれる抱き合わせ販売の一種とみなせる。このとき、主たる財(ここでは回線契約)で市場支配力を持つ事業者が、従たる財(ここでは携帯端末)を抱き合わせ販売すると、従たる財市場でも市場支配力を発揮できることが知られている。また、従たる財市場での価格を市場価格よりも大幅に下げる(今回のケースでは携帯端末を一円で販売する)ことで、競合するライバル企業を排除することが可能である。

 

 

このように主たる財市場で市場支配力を持つ事業者が、従たる財市場でも市場をコントロールすることを「独占の梃子」という(2)今回の公取委の実態調査は、回線契約で市場支配力を持つ大手事業者が独の梃子を利用することで、主に格安の通信サービスを提供しているMVNO(自社で無線通信インフラを持たずに他社から借り受けてサービス提供する事業者)が排除される可能性を危惧したものといえよう。なお、実際にスマホを一円販売しているのは通信事業者ではなく、通信事業者と契約を結んだ販売代理店である。したがって、仮にこれら代理店の行為に不当廉売が認められたとしても、その責任を通信事業者まで問えるのかは独占禁止法の運用上の問題となろう。代理店そのものは多くの場合、競合相手の多い市場環境に晒されており、市場支配力を発揮しているとは言いがたい。また、通信事業者も代理店にはスマホを大幅値下げしないように指導・依頼しているという建前がある。しかしながら、代理店の原資が通信事業者からの販売奨励金であることは疑いようがなく、そうした過剰なインセンティブが代理店の不当廉売を誘発している現状に何らかのメスが入れられる可能性がある。ところで携帯電話の通信料金の話をすると、二〇一八年八月に当時の官房長官だった菅義偉前総理が「携帯電話の料金は四割値下げする余地がある」と発言したことが思い起こされる。

 

 

これは当事の国内通信料が国際的にみて高止まりしていたこと(OECD加盟国平均の二倍程度)を踏まえてのものであるが、この発言を機に総務省は有識者や携帯電話各社へのヒアリング調査を実施し、その後、通信事業者に料金プランの見直しを含めた業務改善を提言するに至った(3)リベラルな方であれば、価格規制の撤廃された携帯電話市場で、監督省庁といえども政府が通信料金に直接口をはさんだことに違和感を持つかもしれない。この点を理解するには、そもそもなぜ携帯電話市場価格や参入を規制される産業なのか、その経済学的な根拠を押さえておく必要がある。まず、携帯電話市場が通常の(規制の必要ない)市場と異なる点は、費用逓減産業であることだ。費用逓減産業とは、想定されうる需要量の範囲内では市場規模の拡大とともに平均費用が下がり続ける性質(経済学では規模の経済という)を持った産業のことである。

 

また、事業者がサービスを供給するには基地局や回線ネットワークなどのインフラ整備に巨額の設備投資が必要となるが、その大部分が埋没費用(事業撤退時に回収不能となる費用)であるという特徴もある。このような特徴を持った産業では、政府がなんらかの参入規制を行わないと、事業者が企業結合や倒産を繰り返すことで一社に集約していくことが知られている。これを自然独占という。実際に戦前の国内電力産業では参入・退出が自由であったため、全国に八五〇社も存在していた電力会社が次第に地域別の八社に集約していった。自然独占市場で生き残った事業者が過度な市場支配力を発揮すると、費用逓減産業の特徴と相まって市場の効率性が大きく損なわれてしまう。したがって、費用逓減産業では競争政策の観点でも、政府が参入を制限した上で価格規制を実施することが望まれる。携帯電話市場ではその役割を総務省(旧郵政省)が担ってきた。技術進歩による需要の急拡大が進む携帯電話市場では、一九九〇年代後半から電気通信事業法の改正によって、段階的に規制緩和が進められてきた。二〇〇一年には既存のMNO(自社による回線網を保有する事業者)の持つ回線網への第三者の接続ルールが見直され、新規事業者としてMVNOがサービス供給を開始した。さらに二〇〇四年には参入許可制と料金規制が撤廃され、事業者は比較的自由な事業展開ができるようになった。

 

これら規制緩和の目的は、政府監督のもとでは価格や品質などで事業者間に競争原理が働かず、効率性が改善しないという規制産業のマイナス面を抑制することにある。また、自由化の進展とともに消費者保護ルールの整備も進んでおり、消費者の選択肢は以前よりも格段に増えたといえよう。一方で現状の携帯電話市場のプレーヤーについては、ごく少数の大手MNとそれ以外の多数のMVNOという構図となっている。二〇一八年までにMVNOが全国九八三事業者まで増加した一方で、MNOは大手事業者の統廃合によってNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの三社に集約した。ここで、KDDIは二〇〇〇年にDDI、KDD、IDOが合併してできた事業者であり、ソフトバンクは二〇〇四年に日本テレコム、二〇〇六年にボーダフォンを買収して参入した事業者である。また、二〇〇七年にはイー・アクセスが第四のMNOとしてモバイル事業に参入したが、その後の収益性の悪化によって、二〇一四年にはPHSサービスを提供していたウィルコムとともにソフトバンク(ワイモバイル)に吸収合併されている。

 

こうした企業結合によって、二〇一八年時点での三社集中度は八八%を超え、携帯電話市場は上位三社が圧倒的なマーケットシェアを占めるガリバー型寡占市場になっていた。つまり、菅発言の当時は競争原理の導入がある程度進んだものの、市場が集約したことで競争圧力が低下し、通信料金が下げ止まっていた時期といえる。二〇二〇年四月に楽天モバイルが第四のMNOとして新規参入を果たした。現時点でこの参入が市場に与えたインパクトは非常に大きなものとして受け取られている。というのも、前述の政府提言があったとはいえ、二〇二一年一二月時点での携帯電話の通信料金は先進六国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国)の中で最安値となる水準まで低下しているからだ(4)。総務省によると二〇二二年三月末時点での楽天モバイルのマーケットシェアは二・四%に過ぎないが、参入からわずか二年足らずで通信料金が劇的に下がったことを考えると、楽天の存在は無視できないだろう(5)さて、携帯電話市場の話がだいぶ長くなってしまったが、ここからは「産業組織のエッセンス」の紹介である。

 

本書は主に経済学部の二、三年生を想定して、ミクロ経済学の基礎から企業戦略、そして競争政策までをカバーする内容となっている。本書を書き上げるにあたって特に二つのことに留意した。月まず、一つ目は競争政策の考え方について、その背景にある経済理論から体系的に学べるようにしたことである。産業組織論はミクロ経済学の応用科目に位置づけられるが、現在多くの経済学部で開講されている授業では基礎部分のミクロ経済学にかなりの比重が置かれており、応用となる競争政策の内容まで踏み込めていないことが多いように思う。

 

例えば、筆者が以前所属していた神戸大学経済学部では、産業組織論は半期一五コマの二単位科目として開講されていたが、一五回の授業ではカバーできる内容に限界がある。独占市場や寡占市場などのミクロ経済学の基礎を復習し、企業の価格設定や設備投資などの企業戦略を教えた段階で時間がほとんど残されていない。したがって、例えば、前述の携帯電話市場の規制緩和や競争政策の話まで手が回らないのが実情である。これでは、せっかく学んだ経済理論を現実社会の理解に役立てることがないまま講義が終わってしまう。そこで、本書では、各章で扱うトピック、例えば企業の価格戦略やカルテル、合併、研究開発投資などの理論を解説し、現実の事例を取り上げたうえで、さらに規制当局がそれをどのように取り締まっているのかまで掘り下げた。

 

この点は従来の教科書ではあまり強調されてこなかった部分であり、本書の特徴の一つである。本書の特徴の二つ目は、数学の不得意な学生でも内容を十分理解できるように、数式や図表の使い方に工夫を凝らしたことである。日本では伝統的に経済学部は文系学部とされているが、その実、経済学部で開講される基礎科目の多くは数学が必須の内容となっている。一方で私立大学を中心に経済学部の学生の多くが数学を苦手としており、基礎の段階であきらめてしまうことが多いように思う。この一因にはほとんどの私立大学が経済学部の受験科目に数学を求めておらず、

 

高校二年生からまったく数学を学んでいない学生が大半を占めていることが挙げられる。こうした学生が、基礎をきちんと理解したうえで応用まで進むのは困難である。したがって、本書では高度な数学の利用を避け、高校数学I+αレベルの知識で経済理論を学べるようにした。どうしても理論の証明に高度な数学が必要となる箇所については、本文とは別にウェブサポートページで補足することにし、より理解を深めたい学生にも対応できるようにした。以上のように、本書は産業組織論の基礎から応用までの幅広い範囲をカバしつつも、必要となる数学的知識を抑えることで、初学者が最後まで脱落せずに学べる内容となっている。

本書を通じて、一人でも多くの学生が競争政策を議論できるようになれば、筆者としてこれ以上喜ばしいことはない。

 

脚注

(1)本稿を執筆するにあたり、携帯電話市場の動向と競争政策に詳しい東京経済大学の黒田敏史氏から有益なコメントを頂いた。この場を借り感謝を申し上げたい。(2)回線契約と携帯端末のどちらが主たる財なのかという議論があるが、回線契約では通常二年縛りなどの期間拘束や解約時に高額の契約解除料を請求されることが多いため、消費者は一度契約したキャリアにロックインされる傾向にある。このため、どちらが消費者にとって重要な意思決定かを問えば、回線契約を主たる財とみなすのが妥当であろう。(3)総務省「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」二〇一九年一(4)ICT総研「二〇二二年一月スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査」(5)他国のケースであるが、フランスの携帯電話市場では第四のMNOが参入したことで、既存事業者三社間での暗黙の協調が崩れ、商品展開の拡大とともに通信料金が下がったことが指摘されている(Bourreau, M., Y. Sun, and F. Verboven (2021), “Market Entry, Fighting Brands, and Tacit Collusion: Evidence from the French Mobile Telecommuni- cations Market.” American Eco- nomic Review, 111 (11) 3459-3499.)。

 

 

 

プラクティカル産業組織論

 

泉田 成美 (著), 柳川 隆 (著)
出版社:有斐閣、出典:出版社HP

まずは産業組織論の中で初学者でも読めるものがこちらの有斐閣アルマのシリーズでているものです。出版自体は少し前のものですが、スタンダードな産業組織論を扱っており平易な言葉で書かれており、最低限の数学の知識で読みすすめることができます。

 

 

産業組織論 — 理論・戦略・政策を学ぶ

 

小田切 宏之 (著)
出版社 ‏ : ‎ 有斐閣:、出典:出版社HP

 

経済学部の産業組織論の授業の教科書として使われることを意図して書かれており、ベーシックな内容、また応用の内容もカバーされています。前半はおさえておきたいスタンダードな知識でそれをやった後は自身の興味のあるところだけでもピックアップして読んでみるのが良いでしょう。

数理経済学やゲーム理論を応用した理論分析がやはり産業組織論には必要ですが、そこに関しても数式による記述を最小限にとどめ、言葉や図で表現されていますので、その辺りも最初に読める形式になっております。

 

産業組織:理論と実証の接合

 

石橋 孝次 (著)
出版社 ‏ : ‎ 慶應義塾大学出版会:、出典:出版社HP

 

日本語で書かれた書籍としては現在、最もカバーしている内容と言えるでしょう。学部である程度産業組織を進めている、または大学院レベルで探しているという場合は間違いなく必要となる1冊です。理論、実証両方とも申し分なくあり、全体で23章というのはそれだけ産業組織論のテーマがあるとも理解できます。

各章での練習問題(簡約解答もあります)、また最後にゲーム理論だけに特化した付録もありこれ1冊で完結できます。もちろん23章全てを読むというより、後半は特にテーマ別になっているため、興味があるところを読みすすめるのが良いです。これらを通して、理論と実証的証拠・政策の近さを実感できる1冊でもあります。

 

テーマ別・その他産業組織関連のテキスト

上記がスタンダードな教科書ですが下記では様々なテーマ別でに出ている教科書や書籍を紹介します。

産業組織とビジネスの経済学

産業組織:理論と実証の接合
主にビジネス・エコノミクスに焦点を置いたテキストとなります。

 

マネジメント・テキスト ビジネス・エコノミクス

伊藤 元重 (著)
出版社 ‏ : ‎ 日本経済新聞出版:、出典:出版社HP

産業組織論のテキストではないですが、ビジネスに関わる経済学の読み物としておすすめできます。他の分野の経済学とのつながりも一緒に学べます。

 

競争政策の経済学 人口減少・デジタル化・産業政策

 

大橋 弘 (著)
出版社 ‏ : ‎ 日本経済新聞出版:、出典:出版社HP

競争政策に関わる読み物として直近の政策を知ることができます。

 

競争政策論

 

小田切 宏之 (著)
出版社 ‏ : ‎ 日本評論社:、出典:出版社HP

独禁法に焦点を当てた競争政策の書籍です。学生、研究者、実務者にとっても役に立つ1冊です。

 

イノベーションと技術変化の経済学

岡田 羊祐 (著)
出版社 ‏ : ‎ 日本評論社:、出典:出版社HP

イノベーション政策についての1冊になり、産業組織での中での参入についても関わりがある1冊です。

 

イノベーション

清水 洋 (著)
出版社 ‏ : ‎ 有斐閣:、出典:出版社HP

経営学的な側面がありますが、そもそもイノベーションを詳しく知らないという場合まず読んでから産業組織論のテキストを読むことで知識と理論と実証が結びつきます。

 

データとモデルの実践ミクロ経済学ジェンダープラットフォーム・自民党

安達 貴教 (著)
出版社 ‏ : ‎ 慶應義塾大学出版会:、出典:出版社HP

体系的には珍しい教科書となりますが、扱っているトピックはかなり面白いです。特にプラットフォームの章が産業組織に関わる分野となります。

 

 

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