労働経済学の内容
労働経済学は、労働市場の機能を研究する経済学の分野になります。賃金、雇用は経済学的な観点からどのようにきまるのか。その労働経済学の理論的な側面、または実証的な側面で見る必要があります。
理論的にはミクロ経済学から入る教科書が多く、実証的には計量経済学の応用分野となります。マクロ経済学の側面からもサーチ・マッチング理論からの失業、雇用、GDP、経済成長を見ていきます。
労働経済学は経済学の中でも様々なトピックがあります。
労働経済学のトピックの一例として
労働の需要と供給、ライフサイクルモデルと労働、人的資本、教育と労働、ジェンダー人種と労働、労働市場の差別、失業、労働政策
などがあげられます。しかしながら更に多くの労働に関するトピックもあり様々な他の経済学分野、または社会科学分野ともリンクがあります。
マクロ・ミクロ面両方からの労働経済学に対する理論・実証ともにありそれらを体系的にまずはテキストを使って学ぶことができます。今回は労働経済学での教科書を紹介します。大学院レベルになると教科書よりは、トピックとしての授業体型になることが多く、実際に労働経済学のジャーナルの論文を読みすすめていくスタイルになります。
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内容紹介
労働経済学をつかむ
unit1 労働市場の重要な指標/unit2 賃金と雇用量の決定
第2章 労働供給
unit3 労働供給/unit4 労働と家庭内生産/補論:標準的な労働供給モデルの数学的表現
第3章 労働需要
unit5 労働者数と労働時間の決定/unit6 景気と雇用調整
第4章 教育・訓練と人的資本
unit7 人的資本モデルとシグナリング・モデル/unit8 企業内訓練
第5章 長期雇用の賃金決定のメカニズム
unit9 勤続年数と賃金/unit10 日本の長期雇用と賃金構造
第6章 転職・就職
unit11 転職の決定と職探し/unit12 労働市場の流動性
第7章 賃金格差
unit13 賃金格差が生じる要因/unit14 グループ間の賃金格差
第8章 失業と不安定雇用
unit15 失業のストックとフロー/unit16 不本意な非正規雇用
第9章 女性労働
unit17 出産,家族形成と女性の就業/unit18 職場における女性労働
第10章 高齢者の就業と引退
unit19 定年制度と退職/unit20 高齢者雇用の経済分析
第11章 労使関係
unit21 産業別労働組合,職業別労働組合と企業別労働組合/unit22 日本の労働市場と労働組合
unit23 結 これからの労働
はしがき
働くことを考えることは,暮らし方を考えることです。「労働経済学」は,現在の暮らしや将来の生活を考えるうえで,さらに過去を振り返るに際しても,重要な理論的枠組みと分析のメソッドを提供します。本書では,以下のような順番で労働経済学の理論的枠組みとメソッドを学んでいきます。なお,各章はIntroductionと2つのunitで構成されていて,各unitには要約と確認問題が付いているため,unitごとに完結して学ぶことができます。
第1章では,日本の労働市場の特徴を知るために,労働時間,賃金,労働力率などの尺度や,これらを調査する労働統計を取り上げます。皆さんは、日ごろ,ニュースや新聞から,働くことに関するさまざまな情報を受け取っているでしょう。働くことはまさに暮らしの基盤です。これについて,どんな情報があるのかを学びます。
第2章は,人が働く理由,労働供給を扱います。「労働経済学」という名称から,収入を得る賃金労働だけがこのテキストのテーマだと思われるかもしれません。しかし,労働経済学が対象とするのは,賃金労働だけではありません。家事やケア労働(家庭内生産活動),それから楽しみを得る活動,ボランティア活動,睡眠などの活動時間の選択についても考える枠組みを提供します。
ただし,個人が働こうと思えばすぐさまに雇ってもらえるわけではありません。人を雇う企業側の論理にも目を向ける必要があります。第3章は,企業の労働需要を扱います。続く第4章は,教育や訓練が,賃金や雇用にどのような影響を及ぼすのかを考えます。
働くといっても,その働き方は1人1人でとても違います。どのように働いてきたのか、もし皆さんの周囲の大人に聞けば,それぞれ長い職業人生を語ってもらえることでしょう。同じ企業に勤務し続ける人もいれば,転職する人もいます。自分で事業を起こす人もいれば,子どもや家族の世話のために,あるいは再訓練を受けるために離職する人もいます。仕事探しはどのように行われるのか。どれくらいの賃金を期待できるのか。これらの点は,第5章の長期雇用の賃金決定メカニズム,第6章の転職・就職で扱います。誰がどれくらいの賃金を得ているのでしょうか。大卒の賃金は増えているのでしょうか。賃金格差は拡大しているのでしょうか。第7章は賃金格差を扱います。
どのような人が失業に陥るのか、どのくらい早く失業から抜け出せるのか,これも皆さんにとって高い関心事項でしょう。ところが,仕事の失いやすさも,仕事への就きやすさも、実は国によってかなり差があるのです。第8章は,この点を理論とデータを用いて考えます。また第8章は,正社員への需要と非正社員への需要がどう違うのかについても説明します。
読者の中には一人暮らしをして大学に通っている学生も少なくないでしょうが,多くの人は家族と暮らしています。第9章は,世帯での働き方の選択について,そして女性労働について扱います。第10章は,高齢者雇用を扱います。女性,そして高齢者の力を活かす働き方の仕組みをどうつくり出せるのか。ここれは現代日本の最もホットなテーマの1つといってもよいでしょう。第11章は,労働者(労働組合)と企業の関係(労使関係)を扱います。最後のunit23ではこれからの労働の未来を展望します。
本書の特徴は3つあります。まず,労働だけでなく,家庭内生産活動にも注目していることです。日本はとくに男女で働き方が大きく異なっています。男性は正社員として働く者が多いですが,女性は,正社員もいるが,非正社員として働く者も多く、また家事専業者もいます。そして,日本は他の先進国と比べても、家庭内分業の度合いが高いという実態がこれまでありました。そのため,統計で見ると,男性に対して女性の収入が大幅に低く,また女性は低い職位にしか就いておらず,その格差の度合いも世界の中で際立っています。
女性が社会の中で指導的な地位にいないために,その意見が十分に社会に反映されていないことは,これまでにも社会の課題としてたびたび取り上げられてきました。また強い性別役割分業は,出産の先送りも引き起こしており,少子化はいまも進展しています。ただし若い世代では,企業の雇用慣行の変化とともに,夫婦の働き方にもようやく変化が起き,出産をはさんで共働きを続ける世帯が増えつつあります。しかし,他方で初職から脆弱な雇用にしか就けず,その結果,訓練機会を十分に得られない若者はいまも少数とはいえず,これも労働市場の問題として看過できないことです。
2つ目の特徴は,数式をできるかぎり使わずに図表を用いて平易に解説していることです。しかし,上級のテキストで扱っている内容にもつなげられるよう、数式を用いて学びたい場合には,ウェブ上に数式を用いた解説(補論)を掲載しています。
3つ目の特徴は,理論と実際のデータとを行き来しつつ,また海外との比較を通じて日本の労働市場について考えていることです。働くことは,1人1人の暮らしそのものです。そして,それは,雇用慣行,労働市場,その労働市場における職の評価や教育の評価といった,労働市場全体の構造からも強い影響を受けます。また,労働時間や賃金をめぐる法制度,仕事探しのための仕組み,公的年金制度や育児休業制度,税制などさまざまな社会的な仕組みからも大きい影響を受けるのです。日本の労働市場は,海外と比べて,いろいろな面白い特徴があります。新卒一括採用,長期雇用,転職の少なさ,男女間の賃金格差,正社員と非正社員との大きい賃金格差などが特徴としてあげられるでしょう。しかし、このような日本的な雇用慣行は曲がり角を迎えています。グローバル化,コンピュータ技術の発達,少子高齢化などといった大きい変化のなかで,日本においては,仕事能力と家族とを支える新たな働き方のルールの整備,そして活発で生産的な労働市場の再構築が模索されています。
著者の1人である永瀬は,日本の女性労働と家族のあり方がどう日本的雇用のあり方と関わっているのかを長く研究してきました。もう1人の著者である大森は,若い頃の10年をアメリカで過ごし、アメリカで研究活動をし教鞭をとってきました。本書をつくるにあたり,日本の状況とアメリカの状況について著者らはおおいに議論し,加筆・修正を何度も重ねました。そのため,本書は分担執筆ではなく,各章が2人による共著になっています。また本書執筆にあたっては,有斐閣の渡部一樹氏にひとかたならぬお世話になりました。本書を読むことが,労働や家族の未来,とくに賃金格差の大きい女性労働や非正規雇用のあり方について,包括的により良い働き方をつくり出せるよう,日本を客観視しつつ考えるための契機となることを願っています。
ミクロ経済学、マクロ経済学の知識がそれほどなくても一度、労働経済学の流れを知りたいという方に特におすすめです。多くのトピックととともに、現在の労働問題とも直結していますので平易な言葉で全体像を知ることができます。
労働経済学 (ライブラリ今日の経済学)
1.1 労働力の構造
1.2 少子・高齢化
1.3 産業と労働力
1.4 労働力の非正規化
1.5 労働時間
1.6 賃金
第2章 労働市場の需給分析
2.1 需要・供給分析
2.2 市場均衡
2.3 余剰
2.4 労働市場分析
2.5 応用例
第3章 労働供給
3.1 個人はどのように行動するのか?
3.2 満足度合いを測る
3.3 限界効用と限界代替率
3.4 予算制約
3.5 個人の選択
3.6 非労働所得の変化
3.7 賃金変化の影響
3.8 就業選択
3.9 労働供給曲線の導出
3.10 市場の労働供給曲線を求める
3.11 労働供給の弾力性
3.12 女性の労働供給
3.13 応用例:制度が女性の労働供給に与える影響
第4章 労働需要
4.1 生産技術
4.2 限界生産物と平均生産物
4.3 利潤最大化行動
4.4 短期の問題
4.5 長期の問題
4.6 市場の労働需要曲線
4.7 労働需要の弾力性
第5章 失業
5.1 失業のタイプ
5.2 自然失業率の決定
5.3 摩擦的失業と構造的失業
5.4 ベバリッジ曲線
5.5 UV分析
5.6 フィリップス曲線
5.7 オークンの法則
第6章 失業の理論
6.1 賃金の硬直性
6.2 ジョブサーチ理論
第7章 サーチ・マッチングモデル
7.1 サーチ・マッチングモデル
7.2 マッチング関数
7.3 ベバリッジ曲線
7.4 雇用創出条件
7.5 均衡失業率の決定
補論 ナッシュ交渉解による賃金決定
第8章 人的資本
8.1 教育投資モデル
8.2 企業による訓練
8.3 シグナリング理論
第9章 賃金
9.1 完全競争市場
9.2 需要独占モデル
9.3 サーチ理論
9.4 補償賃金仮説
9.5 賃金交渉
9.6 独占組合モデル
9.7 効率賃金仮説
第10章 景気変動と労働市場
10.1 景気循環とは
10.2 景気変動の測定
10.3 労働市場の循環的性質
10.4 労働時間
10.5 実質賃金の循環的動き
10.6 景気循環と労働市場モデル
第11 章 雇用創出と消失
11.1 雇用創出・消失の定義
11.2 雇用創出と消失の特性
11.3 日本の雇用創出・消失
11.4 雇用変動とショック
11.5 景気循環と雇用創出・消失
第12章 労働力フロー分析
12.1 フローとストック
12.2 労働力フローデータ
12.3 日本の労働力フロー
12.4 労働力フローの推移
12.5 推移確率
12.6 失業フロー
補論 失業の流入・流出分析
第13章 制度・政策
13.1 最低賃金制度
13.2 失業給付
13.3 解雇規制
13.4 積極的労働市場政策
13.5 財政政策と労働市場
第14章 日本の労働市場
14.1 日本的雇用慣行とは何か?
14.2 日本的雇用はいつ成立したのか?
14.3 日本的雇用慣行の合理性
14.4 経済環境の変化と日本的雇用慣行
14.5 日本の労働市場の課題
索引
現在、応用経済学としてはミクロの分野が盛んな労働経済学ですが、こちらの教科書ではマクロの側面も過不足なく含まれておりバランスが良いきょうかしょになっています。レベル的には入門のマクロ・ミクロ経済学を既に学んでおくとよいでしょう。
基本講義 労働経済学
1.1 大学進学の理由
1.2 経済学的な視点から大学進学を考える
1.3 どうして進学率は上昇しているのか
第2章 働くか,働かないか,それが問題だ―労働供給(1)
2.1 労働供給行動を考える
2.2 なぜ労働力は変化するか
2.3 ライフサイクルと留保賃金率
第3章 仕事探しは大変です―職探し理論
3.1 求人情報は重要
3.2 職探しの理論①―非逐次型職探しモデル
3.3 職探しの理論②―逐次型職探しモデル
第4章 どれくらい働くの?―労働供給(2)
4.1 労働時間の選択
4.2 効用の最大化問題
4.3 所得の変化と労働時間
4.4 労働供給曲線
4.5 引退過程と年金
第5章 何人雇えば良いの?―短期の労働需要
5.1 新たに人を雇う理由
5.2 短期の企業経営
5.3 独占企業の労働需要
第6章 機械を使うか,人手を使うか―長期の労働需要
6.1 長期の企業経営
6.2 労働需要の賃金弾力性
6.3 雇用者数の変化と雇用調整
第7章 労働者と企業の出会いの場―労働市場のメカニズム
7.1 労働市場の供給と需要
7.2 労働市場の効率性
7.3 買い手独占の労働市場
第8章 どうして賃金が違うの?(その1)―補償賃金仮説
8.1 賃金格差の実態
8.2 仕事の内容や性質と補償賃金
8.3 仕事に対する需要と供給
第9章 どうして賃金が違うの?(その2)―差別の経済学
9.1 男女間賃金格差の実態
9.2 合理的な差別
9.3 日本における女性活用
第10章 賃金はどう支払われる
10.1 賃金はどう支払われているのか
10.2 なぜ年齢や勤続年数とともに賃金は上がるのか
10.3 退職金が支払われる理由
補論 賃金関数はなぜ片対数になるのか
第11章 どうやってスキルを身につけるのか―人材開発
11.1 賃金プロファイルと教育訓練
11.2 誰が費用を負担するのか
11.3 正規労働者と非正規労働者の境界
第12章 失業はなぜ起こる
12.1 失業率の定義とその推移
12.2 性別と失業率
12.3 年齢と失業率
12.4 失業が発生する理由
12.5 均衡自然失業率
12.6 雇用の創出と消失
補論 経済指標の要因分解について
第13章 団結して交渉しよう―労使関係と労働組合
13.1 労働者と使用者の関係―労使関係
13.2 集団的関係としての労働組合
13.3 労働組合組織率
13.4 労働組合の役割,目的
第14章 これからどうなるの?―労働市場と働き方の未来
14.1 労働供給の変化とその対応
14.2 労働需要側の変化
14.3 労働市場の変化
文献案内
索引
前半のStory編から後半の続くTechnical編への流れで各章が構成されています。1つの章で授業一コマとして対応もしており、それぞれのトピックを身近なところから入れるのがポイントになります。
労働経済学 — 理論と実証をつなぐ
第1章 労働経済学への招待:理論と実証をつなぐ
第2章 労働供給
第3章 労働供給モデルの応用
第4章 労働需要
第5章 労働市場の均衡
第6章 補償賃金格差
第7章 教育と労働市場
第8章 技能形成と外部・内部労働市場
第9章 労働市場における男女差
第10章 これからの日本社会と労働経済学
はしがき
本書は学部上級から大学院初級向けの労働経済学の教科書である。すでに出版されている労働経済学の教科書に比べての特徴は経済理論と実証分析を統合している点にある。ある労働に関する現象を説明する経済理論を紹介したのちに,その理論をデータを用いてどのように検証するかという実証分析をかみ砕いて説明している。理論と実証分析の行き来を通じて,読者が現実との対応を感じながら労働経済学の勉強を進められることを目指した。
本書は,2008年度から2015年度にかけて一橋大学経済学部で,ミクロ経済学と計量経済学の入門的な授業を履修した2・3年生を対象に行われた「労「働経済学」の講義ノートをもとに執筆されている。偏微分などの解析を用いたミクロ経済学と計量経済学の基礎知識を前提として講義を行ったため,本書もそれらの基礎知識を前提に執筆されている。もっとも大学入試で数学を用いなかった私立大学の学生でも,大学1年レベルの解析の授業を履修し,ミクロ経済学と計量経済学を履修した後であれば理解できるレベルである。また、数式の展開もなるべく丁寧に追うようにしてある。また,計量経済学に関しては,本書でその手法がどのように使われているかを大雑把に把握してから,計量経済学の授業を履修するといった方法も考えられるであろう。
内容的に学部授業の内容を超えると思われる項目にはを付してある。これらの項目は読み飛ばしても通読に差し支えないように構成してあるが,大学院への進学を希望する学部生や大学院生にはぜひチャンレジしていただきたい。★がついている項目を読み飛ばしたとしても,本書の内容は90分×週2回×15週の4単位の授業でカバーにするには若干トピックが広すぎる。本書を教科書採用してくださる教員の方は適宜一部の章や項目を落として講義するのが適切かもしれない。各章で紹介した内容の理解を確認するため各章末には練習問題を付した。多くの問題は一橋大学における中間テストや期末テストから採用した。難易度別に分けるとともに,実証分析に関する問題はその旨がわかるようにしてある。知識の定着を試すとともに試験対策などのために利用していただければと思う。なお,練習問題の解答例と解説は有斐閣書籍編集第2部ブログ内の本書のサポートサイト(http://yuhikaku-nibu.txt-nifty.com/blog/2017/11/16507.html)で公開しているので,あわせて利用してほしい(「ウェブ付録労働経済学有斐閣」で検索)。
本書のなかには,筆者が『週刊ダイヤモンド』誌に掲載してきた「数字は語る」という記事を加筆修正し,Columnとして関連する内容の各章に配置している。記事の執筆にあたっては,前田剛さん,大坪稚子さんに大変お世話になった。これらのColumnが教科書の内容と現実との間の橋渡しとなっていることを願いたい。また,記事の本書への転載を許可してくださったダイヤモンド社に感謝する。
本書の執筆にあたっては,非常に多くの方にお世話になった。まず8年間にわたり開講された労働経済学の授業を履修した一橋大学経済学部の学生たちに感謝する。数理的な解析力に優れた学生が多く,教えたいと思う内容を躊躇なくすべて教えることができた。これには一橋大学経済学部のカリキュラムが体系的に整備され,多くの学生たちが専門科目を履修する前に,すでにミクロ経済学や計量経済学の基礎知識を身につけているという事情もある。このような教育環境を用意してくれた一橋大学経済学部にも感謝する。筆者が面白いと思う内容は学生たちも面白いと感じるらしく、手ごたえを感じることが多かった。とくに実証分析の内容を紹介した際の,学生の反応が良かったのが印象的である。このような優秀な学生を相手に講義できたことはとても幸運で,筆者自身も労働経済学の幅広い分野に対する理解を深めることができたと思う。
この授業を一橋大学経済学部2年生の時に履修し,現在は東京大学大学院経済学研究科に在籍する鳥谷部貴大さん,東京大学経済学部の高橋雅士さん,同経済学研究科の山岸敦さん,天木菜々恵さん,同工学研究科の田村傑さんは,草稿の一部を読み,コメントをくれた。また大学院経済学研究科の一橋大学大学院経済学研究科講師の森啓明さんは,一橋大学経済学の労働経済学の講義で草稿の一部を利用し感想を寄せてくださった。編集担当者の尾崎大輔さんに本書の執筆を約束してから,およそ8年の歳月が流れてしまった。大学で経済学を学び,その後も多数の経済・経営書の編集を担当された尾崎さんからは,文章表現はいうに及ばず内容へのコメントを多数いただいた。研究室に足しげく通ってくださり、筆者の執筆をソフトに監視する傍らで,図表の作成,参考文献の整理,コラムの整理,章末問題の整理を手伝ってくださった。尾崎さんは2017年5月に有斐閣を退職されNIRA総合研究開発機構に転職されたが,転職後も本書の完成に向けて細かい作業を続けてくださった。尾崎さんの助けがなければ字義通り本書は完成しなかった。また,尾崎さんを引き継いだ有斐閣の岡山義信さんは非常に丁寧な最後の仕上げを行ってくださった。お世話になったすべての方々に深くお礼申し上げたい。なお,本書に含まれる誤りは言うまでもなく筆者がそのすべての責を負うものである。
大学学部上級〜院に向けての内容の知識になっております。統計、計量経済学の知識もあると更に読み込みが早くなります。現代の労働経済学の特徴は、計量経済学や実験的手法を応用して実証的な結果を出すことになっています。。 本書は、労働経済学の第一人者が、実証研究の蓄積を紹介し、理論的説明とのバランスを意識して執筆したものです。 理論の解説では、高度な内容も網羅されていますが、式の展開はできる限り丁寧にたどり、図を使った解説も適宜用いているので、初級者や他分野を専攻する学生でも、初級ミクロ経済学の教科書をよく読んでおけば良いでしょう。 また、レベルや種類ごとに確認・展開・実演の練習問題が豊富に用意されているので、解いて理解度を確認みましょう。