医療経済学(健康経済学)おすすめテキスト教科書(初学/大学学部/大学院) – わかりやすい入門から応用本までランキング

経済学は希少性の科学となり、 制約のあるリソース内で厚生を最大化するために、選択がどのように構造化され、優先順位が付けられるかを分析します 。通常の商品の購入のように医療もサービスを選択する上で経済学の意思決定、最適化が必要になってきます。

医療経済学が範囲とするのは医療と経済、 価格・効用・市場、 医療保険、 医療の需要供給、 サービスの質、 情報の非対称性、 医療政策、 医薬品、ジェネリックなどを経済学の知見を元に考え、また、大枠での公衆衛生、人口などのトピックなども含まれます。この辺りは英語でのHealth EconomicsのHealthの訳の仕方を、下記でも挙げている教科書の1つの著者でもある慶應大後藤先生、井深先生もおっしゃっているように、医療にするか、健康にするかで日本語だとイメージも違ってくるかと思います。

現在は範囲が広がって他の経済学との境界線も少なくなっており、自身がどのような医療経済学を学びたいか教科書もピックアップするのが良いでしょう。

医療経済学の研究分野 – 研究計画書、修士論文案、卒論テーマ

 

医療経済学15講

細谷 圭 (著), 増原 宏明 (著), 林 行成 (著)
出版社:新世社、出典:出版社HP

 

健康経済学 — 市場と規制のあいだで

後藤 励 (著), 井深 陽子 (著)
出版社:有斐閣、出典:出版社HP
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本書について
後藤
少子高齢化が進む日本で、医療や介護といった健康について関心が高まっています。とはいっても関連する財・サービスは、ドラッグストアで買うことができる一般薬のような市場で供給される財もありますし、規制の下で運営されている保険診療もあります。これをまとめて、消費者が真に求める「健康」の名を冠した経済学の教科書を書こうと共同執筆が始まりました。まず井深さんから、特に本書の執筆で力点を置いたところを教えていただきたいのですが。

井深
標準的な経済学のフレームワークを大事にしながら、実例の選択とかストーリーの構成において実際の医療制度や社会との関わりを重視した点だと思います。例えば、4章では需要の話で読者の普段の行動を考えながら読んで納得してもらえるような形になればと思っていました。

後藤
4章にはグロスマンモデルという健康需要の理論が出てきますがかなり抽象的です。

井深
個人の健康を希求する行動を効用最大化のフレームワークで説明した理論です。抽象化されているのはその通りなんですけれど、自分の身に置き換えながら考えることで、現実を考える場合に果たして理論が正しい角度で描写できているのかを考えるきっかけになるといいなと考えながら執筆しました。医療関係の方には少しとっつきにくい考え方だと思いますが、どうですか。

後藤
患者さんは医療サービスを求めているのではなくて、健康を求めているというのは当然ですし、予防医療などについても注目されていますので、消費者が健康を生産する側面を持つという考えも理解できるのではないかと思います。

井深
日頃医療者の方々は医療サービスの需要者である患者さんに接していらっしゃることが多いでしょうから、少し違う見方もできるかもしれないということを伝えることができれば本当にうれしいですね。

後藤
そうですね。逆に、グロスマンモデルのように健康や医療の経済分析に特徴的な理論を経済学部生に教えるときに難しさを感じたことはありますか?

井深
その辺が教える側の力量が問われているところだと思うのですが、経済学の教え方にこだわり過ぎると理論的な厳密性が中心になっていって、それを多種多様な存在から成り立つ現実とうまく絡めるというところが少し後回しになってしまうということがあるんですね。しかし、健康経済学という分野の場合、みんなの関心のある所は、もちろんモデルの面白さ自体に関心のある人も多いとは思うのですが、それ以外にこのモデルを使って何が考えられるのかな?とか、何が役に立つんだろう?というようなことだと思います。そういう部分を説明するためには、そのモデルが現実の保健医療とどういうふうに関わっているのかということを、制度との関係も含めて説明できるようにならないとなかなか面白さが伝わらないのかと思っています。ただ、そのバランスが難しいですね。

後藤
教える際の理論と実証のバランスの難しさというのは、非常に共感できると思います。一方で、どの現象に理論を当てはめようとするかで全く違いますが、理論自体の説明力に常に限界があります。例えば、グロスマンモデルのように動学的な意思決定として健康のことを長期的に考えられるような人は少ないかもしれませんね。このことに対して行動経済学の面から修正があったりなど研究も進んでいますね。

井深
経済学の中にもいろんな考え方があって、今の保健医療介護についてすべてを統一的に説明できるような理論はありません。でも、部分的にはかなりきっちり説明できるというようなバランスをどういうふうに読者に伝えていくかっていうのは本当に難しいですね。私は現在の政策においても重要な費用対効果の経済的基礎を扱った1章と効率と公正という公的制度の重要な問いを扱っている13章にも本書の特徴があると思います。

後藤
臨床をされている医療系の方にとっては、医療の費用対効果を医療経済学と考えておられる場合も少なくありません。諸外国で政策に用いられている費用対効果が、昨年度から日本でもと医療機器の価格を調整する際に明示的に考慮されるようになりました。こちらについても、経済学の理論的な背景をふまえながら、関係する医療制度全体の中でいろいろな政策の形がありうるということを説明するように心がけました。また、効率以外の要素については、13章で取り上げられていない考え方もたくさんあります。本書では、効率の視点と効率以外の視点を分けて議論することの重要性を強調しました。

後藤
この教科書では、標準的な経済学に依拠しつつも様々な考え方を紹介しています。一方で学生にとっては、多様な考え方が出てきてわけが分からなくなったりするというリスクもあると思います。教えられる際にはどのような工夫をなさいますか?

井深
そうですね。今仰ったように現実から物事を見ていくと、一つの視点だけで見るわけではないので、そういう意味ではグロスマンモデルみたいな形での一つの理論というのはそれだけで全ての現実を描写できていないというのはその通りだと思うんです。でも人々の選択の根拠を効用最大化という経済学の視点で考えることも重要なんだよということを説明して、ただ、それが保健医療介護を考える時の唯一の見方じゃないということもどこかで説明することが大事なのかな、と思います。

後藤
7章でとりあげた「供給者誘発「需要」も同様ですね。患者さんの健康改善を十分考えずに診療するお医者さんがいるのではないか、という問いから出発するというのは、医療界の人からはかなり違和感があることかもしれません。私は、医師に対する見方としてあり得るし、実際にも勤務先や働き方によって医師の行動原理はかなり変わると思っています。一方、医療系以外の学生に対しては、お医者さんへの理想と現実のバランスがあるという見方を持ってもらえるきっかけになればと考えています。

井深
そうですね。本の中でどの見方を説明するにも、なぜそのような見方が現実からみて理にかなっているのかという根拠を一生懸命書いたように記憶していますので、そういうところが伝わるといいな、と思います。

執筆の経緯について
井深
この本の執筆に至った経緯をもう一度振り返ってもよろしいですか。

後藤
私は現在ビジネススクールで教えているんですが、企業経営のミドル層・トップ層の方々にとって保健医療介護が、自分たちのビジネスを左右する可能性がある大きな経営環境として重要だということが共通認識になっていると思います。保健医療介護を考える際に経済学の視点で考えることは非常に重要だと思うのですが、一方で、「それは専門家の人たちが一生懸命考えていることだからその人たちに任せておけばいいことだ」と感じている印象も受けています。そこで、供給者目線、医療者目線の「医療経済学」ではなく、消費者目線の健康経済学の教科書を書きたいと考えました。

井深
これまでは健康を守るものすなわち医療という時代でしたから医療経済学と言う名前もしっくりしていたのですが、介護や保健も重要な時代になると状況は変わりますよね。

後藤
私自身も医療経済学という言葉の方が慣れていたのですが、だんだん健康経済学でないと違和感を覚えるようになるかもしれませんね。実は医療者側も、急性期医療に携わる方から介護や保健に関わる方まで本当に多様なので、より広い健康という概念を中心に経済学を学んでもらうのは有益だと思います。

井深
この本を書いていく中でいろいろな見方ができるということを再確認できて、この教科書を書きながら経済学が一つの物の見方だというような考え方を深められていったのではないかなと思います。読者の対象として、経済系の学生やビジネスパーソンだけではなく、医療系の学生や医療者の方々にも読んでいただきたいと考えていますので、幅広い視点で健康を考えて、消費者側・生産者側の立場を越えた議論につながるきっかけになればと思います。

この本の使い方について
後藤
医療系、経済系二つの読者層を想定していると言いましたが、医療者の方々には健康に関する財の取引も普通の経済活動とそんなに変わらない面も多いという見方を持ってほしいと思います。基本は変わらないけど、どの面は違うかっていう視点で考える、最初から医療が特別だというところから入らないでほしいなと思います。

井深
なるほど。私は経済学部を担当しているので主に経済学部の学生さんを念頭において考えますと、健康ってすごく身近な問題かつ社会にとっても重要な問題です。そういう問題を考える上でも経済学が有用な手段になるということが実感として伝わればいいなと思います。例えば、医療費の伸びの問題とかニュースで報道されることも多くて関心を持っている人も多いと思うんですが、そういう大きな問題の背景に個々の人がいて、医療を必要とする患者さんがいて、それを支える医療者がいて、またそれらを支える制度があって、ということを具体的に想像できるようになってほしいという願いを込めています。

後藤
研究者を目指す大学院生の方には何かメッセージはありますか?

井深
大学院生の方には、健康経済学を専門とする人は勿論、そうじゃない人にも手に取っていただけると嬉しいです。もともと健康経済学自体が労働経済学、財政学、産業組織論や人的資本を扱う教育の経済学と様々に相互関連を持っている分野なので、健康経済学という視点を通して自分の分野にも新しい発見があるかもしれません。

 

医療の経済学

河口 洋行 (著)
出版社:日本評論社:、出典:出版社HP

世界一わかりやすい 「医療政策」の教科書

津川 友介 (著)
出版社:医学書院、出典:出版社HP

 

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者

 

大竹 文雄 (著), 平井 啓 (著)
出版社:東洋経済新報社、出典:出版社HP

 

経済学を知らずに医療ができるか!? 医療従事者のための医療経済学入門