【入門】やさしい教育経済学 – 2.教育の効果

2.教育の効果

 

経済学での関数

ここで関数を簡単に説明します。

経済学は、人々の行動や選択を理解し、その結果としての経済現象を解明する学問です。そのため、経済学における多くの問題は、変数間の関係性を示すための「関数」という数学的ツールを利用してモデル化されます。関数は、ある変数(入力)がどのように他の変数(出力)に影響を与えるのかを示すもので、これを用いることで経済的な状況や現象の因果関係を明確にすることができます。

例えば、価格と需要の関係を示す需要関数は、ある商品の価格が変わったとき、その商品の需要量がどのように変化するのかを示す関数です。同様に、生産関数は、生産要素の投入量に対して、どれだけの商品やサービスが生産されるのかを示します。これらの関数を使用することで、価格の変動や生産要素の変化が経済全体にどのような影響を与えるのかを予測することが可能となります。

関数を使用することの大きな利点は、経済現象の背後にあるメカニズムや構造を数式で表現することで、定量的な分析やシミュレーションを行うことができる点です。これにより、政策提案や戦略の策定時に、その結果としての効果や影響を具体的に予測することができます。

経済学での関数の使用は、経済的な現象や問題を理解し、解決するための鍵となっています。複雑な経済現象も、関数を使用してシンプルなモデルに落とし込むことで、因果関係や影響を明確にし、より効果的な経済政策や戦略の策定をサポートしています。

 

 

 

成長会計における教育効果

教育効果の定量的な研究と考察はエドワード・デニソンとメアリーボウマンらによって展開されました。彼らのアプローチは、成長会計に基づく生産関数を用いた分析でした。この時代、経済成長を引き起こす主要な要因としては、(1)資本の蓄積、(2)人口あるいは労働力の増加、(3)技術進歩による生産性向上(ソローモデルに基づく)が考えられていました。

 

生産関数とは、生産量と生産要素の関係を示す関数です。簡単に言えば、ある生産要素をどれだけ使うと、どれだけの商品やサービスが生産されるのかを示すものです。数式で表すと以下のようになります。

\[
Y = F(x_1, \ldots, x_n)
\]

ここで、\(Y\) は生産される商品やサービスの量を示し、\(x_1, \ldots, x_n\) は生産に使われる各要素を示します。これを具体的に資本(K)、労働(L)、土地(A)の3つの要素で考えると、次のように表されます。

\[
Y = F(K, L, A)
\]

ここで、
\(Y\) : Output(生産高)
\(K\) : Physical Capital(物的資本)
\(L\) : Labor(労働)
\(A\) : Land(土地)

生産高の向上 \(Y\) をもたらす資本、労働、土地の影響を示すためには、次のような関数を考えることができます。

\[
Y = F(K^{\alpha}, L^{\beta}, A^{\chi})
\]

ここで、\(\alpha + \beta + \chi = 1\) という関係が成り立つと考えられていました。しかし、デニソンの研究により、\(\alpha + \beta + \chi < 1\) という結果が示されました。これは、経済成長の要因として考えられていたものが、全てではないことを示唆しています。特に、労働の「量」よりも「質」の向上が経済成長に大きく寄与していることが強調されました。そして、この「質」の部分に、教育や知識の向上が大きく影響していることが明らかになりました。技術進歩が外生的要因として位置付けられていたのに対し、これにより技術進歩も内生的に考えられるようになり、新たな視点が提供されました。

 

 

教育の実証モデル

以下に教育の生産関数を応用した基本的な分析モデルを考えましょう。これは、\(i\)という学校に通う生徒が一定の課程\(t\)期間を経て達成した教育成果を\(Y_i\)として、その成果を生む生産関数を以下のように表します。
\[
Y_i = \alpha Y_{0i} + \beta S_{ti} + \chi P_{ti} + \varepsilon_{ti}
\]

先述のように、教育の成果\(Y_i\)には例えば全国共通テストなど、地域間の共通テストのスコアが用いられます。ここでは、学校の分析が単位になっているため、当該学校の学生による成績の平均値などが用いられます。\(Y_{0i}\)は分析の対象としている教育を受けなくても達成できる成績、つまり当該教育開始時に既に獲得されていた成績や能力の指標となります。

研究対象となっている学校に優秀な生徒たちが集まっている場合にはこの値は高くなるだろうから、学校教育自体の効果を正直に測るためにはそれ以前の要因効果が識別できるモデルを立てなくてはならない。\(S_{ti}\)は学校の関する要因であり、調査対象属性及び学校や教育の特質を表す。例えば、学校の近隣環境、設備、クラス規模、(教員と生徒の比率等)、教員の特性や技能、親の特性、私立か公立かなどが代表的な変数群である。

\(P_{ti}\)は生徒自身の属性や、親の特性、家庭環境に関する要因です。生徒の性別、人種、親の学歴や収入、近隣の社会的・経済的特性などが代表的な変数群です。\(\alpha\)、\(\beta\)、\(\chi\)は各変数の効果を表す係数であり、\(\varepsilon_{ti}\)は誤差項です。この式によって、学校に関わる要因及び生徒自身や家族に関わる要因がどの程度生徒の成績の作用するのかを分析する。翻って、どの要因にどれだけ資源を投入すれば成績を伸ばすことができるかという演繹的な解釈のもとに、学校運営の資源配分の参考にもされる。

 

 

 

 

重回帰モデルで考えてみよう

どうして学校や生徒ごとにテストの点数が違うの?重回帰モデルで考えてみよう

テストの点数が出ると、なぜ同じ学校でも、または違う学校でも、生徒ごとに点数が違うのか気になることがありますよね。その答えを出すために使えるのが「重回帰モデル」という数学の式です。

この数式が何を言っているの?

\[
Y_i = \alpha Y_{0i} + \beta S_{ti} + \chi P_{ti} + \varepsilon_{ti}
\]

この数式は、i番目の学校の生徒がテストでどれくらいの点数(\( Y_i \))を取るかを予測しています。

– \( Y_i \):予測したいテストの点数(例:全国共通テストのスコア)
– \( Y_{0i} \):その学校の生徒がもともと持っている能力や知識
– \( S_{ti} \):その学校の環境(例:教員の質、設備、学校の場所など)
– \( P_{ti} \):生徒やその家庭の特性(例:親の学歴、家庭の学習環境など)
– \( \varepsilon_{ti} \):その他の未測定の要素(例:生徒のその日の気分、偶然など)

なぜこの数式が便利?

この数式を使うと、各要素(\( Y_{0i} \), \( S_{ti} \), \( P_{ti} \))がテストの点数にどれくらい影響を与えるかがわかります。それぞれの影響力を示すのが、\( \alpha \), \( \beta \), \( \chi \)という数値です。

– \( \alpha \)が大きい場合:生徒がもともと持っている能力が点数に大きく影響しています。
– \( \beta \)が大きい場合:学校の環境が点数に大きく影響しています。
– \( \chi \)大きい場合:生徒や家庭の状況が点数に大きく影響しています。

この数式を解析することで、どの要素に力を入れればテストの点数が上がるか、どの部分が改善されるべきかが明確になります。例えば、\( \beta \)が一番大きかったら、学校の環境(教員の質や設備)を改善することが最も効果的かもしれません。

このように、重回帰モデルは複数の要素が影響を与える複雑な問題に対して、どれが一番大事なのかを見つけ出す手がかりになります。そして、それは学校運営や教育政策にとっても非常に価値のある情報です。