選好関係とは何か?
経済学において、消費者は財(商品やサービス)を自身の目標達成の手段として捉え、これらを彼らの役立つ度合いに基づいて評価します。この評価の基準を選好関係と呼びます。
選好関係の表現方法
R(選好関係)
消費者が二つの異なる財$a$と$b$を比較したとき、どちらが望ましいか(または同等か)を判断します。すなわち、$a \mathrel{R} b$は、$a$が$b$より望ましい、または$a$と$b$が同等であることを意味します。
例:
もしあなたがコーヒーを紅茶よりも好む場合、これは $a \mathrel{R} b$ 、つまり 「コーヒー $\mathrel{R}$ 紅茶 」と表現できます。これは「コーヒーが紅茶より望ましい」と解釈されます。
一方で、もしコーヒーと紅茶を同じくらい好む場合、これはやはり $a \mathrel{R} b$ (または $b \mathrel{R} a$ )と表現でき、これは「コーヒーと紅茶が同等である」と解釈されます。
P(厳密な選好関係)
$a \mathrel{P} b$は、$a$が$b$より明確に望ましいことを示します。
例:
もしアイスクリームをケーキよりもはるかに好む場合、これは $a \mathrel{P} b$ と表現されます。これは「アイスクリームがケーキよりも明確に望ましい」と解釈されます。
この例では、あなたがアイスクリームをケーキよりも明らかに好むことを示しており、これは単に好むのではなく、はるかに好むということを意味します。このような強い好みの差は、経済学において消費者が明確に一方の選択肢を他方よりも優先する場合に用いられる概念です。
I(無差別関係)
$a \mathrel{I} b$は、$a$と$b$が等価であることを意味します。
例:
ここで、青色のTシャツを $a$、緑色のTシャツを $b$とします。
もし青色のTシャツと緑色のTシャツのどちらを選んでも、あなたが同じくらい満足する場合、これは $a \mathrel{I} b$ と表現されます。これは「青色のTシャツと緑色のTシャツが等価である」と解釈されます。
選好関係の特性
反射性
任意の財$a$に対して、$a \mathrel{R} a$が成り立ちます。
例:
反射性の原則によれば、任意の財 $a$ は、自身と比較して同等とみなされます。つまり、このチョコレート $a$ は、自身 $a$ と比較しても、同等であるということです。これは数学的に $a \mathrel{R} a$ と表現され、これは「チョコレート $a$ は、自身と比較して等価である」と解釈されます。
この例では、反射性の概念がどのように適用されるかを示しています。すなわち、任意の財(この場合はチョコレート)は、自身と比較した場合に常に等価とされるということです。これは、選好関係における基本的な性質の一つであり、経済学において財の自己評価を考える際に重要です。
完全性(完備性)
任意の二つの財$a$、$b$に対して、$a \mathrel{R} b$または$b \mathrel{R} a$が成り立ちます。
例:
リンゴ $a$ とオレンジ $b$ の間で選択する状況にあるとします。
完全性(完備性)の原則では、任意の二つの財 $a$ と $b$、ここではリンゴとオレンジに対して、あなたは必ずどちらかがもう一方より望ましい、またはどちらも同等であると判断できるということになります。
つまり、リンゴ $a$ とオレンジ $b$ を比較した場合、あなたはリンゴがオレンジより望ましいと判断するか($a \mathrel{R} b$)、オレンジがリンゴより望ましいと判断するか($b \mathrel{R} a$)、または両者を同等と見なすことになります。
この例では、完全性(完備性)は、消費者がいかなる二つの財に対しても、比較し評価できる能力を持っていることを意味します。これにより、消費者の選択肢は常に明確になり、経済分析において重要な役割を果たします。
推移性
$a \mathrel{R} b$かつ$b \mathrel{R} c$ならば、$a \mathrel{R} c$が成り立ちます。
例:
3種類のフルーツ、リンゴ ($a$)、オレンジ ($b$)、そしてバナナ ($c$) を評価しています。
もしリンゴ ($a$) がオレンジ ($b$) より望ましいと感じる場合、これは $aRb$ と表現されます。
さらに、もしオレンジ ($b$) がバナナ ($c$) より望ましいと感じる場合、これは $bRc$ と表現されます。
この場合、推移性の原則により、リンゴ ($a$) はバナナ ($c$) よりも望ましいと結論付けることができます。これは $aRc$ と表現されます。
この例では、推移性はある選択肢が別の選択肢よりも望ましいと判断され、その別の選択肢がさらに別の選択肢よりも望ましいと判断される場合、最初の選択肢が最後の選択肢よりも望ましいと結論付けられるという概念を示しています。
非飽和性(単調性)
$a$のすべての要素が$b$の対応する要素よりも優れていれば、$a \mathrel{P} b$が成り立ちます。
例:
二つの異なるスマートフォン、モデル ($a$) とモデル ($b$) を比較しています。モデル ($a$) がモデル ($b$) よりもすべての重要な要素(例えば、バッテリーの持ち時間、処理速度、カメラの品質)で優れていると仮定します。
この場合、モデル ($a$) の各要素がモデル ($b$) の対応する要素よりも優れているため、非飽和性(単調性)の原則により、モデル ($a$) はモデル ($b$) よりも厳密に望ましいと判断されます。これは数学的に $aPb$ と表現されます。
この例では、非飽和性(単調性)は、一方の選択肢がもう一方の選択肢のすべての要素において明らかに優れている場合に適用される概念を示しています。これにより、明確に優れた選択肢がある場合、消費者はそれを選ぶと予測されます。
連続性
ある財群から別の財群への移行時に、等価な財群を必ず通過します。
財バンドルを商品の組み合わせとして考えます。例えば、財バンドル $x$ は10単位の商品Aと5単位の商品Bから構成されているとします。これを二次元のグラフ上の点 $(x_1, x_2)=(10, 5)$ と表現します。
収束する点列 ${x_t}$ を考えます。これは、一連の消費計画で、たとえば $x_1=(9, 4.5)$、$x_2=(9.5, 4.75)$、…と、点 $x$ に向かって連続的に近づく点の列です。
この点列は、最終的に点 $x^*$ に収束します。ここで $x^*$ は、例えば $x^*=(10, 5)$ です。この点は、元の財バンドル $x$ と「無差別」つまり等価です。
もし収束先が $P(x)$ の領域内にあるならば、全ての $x_t$ は $x$ より「悪くない」とみなされます。
しかし、もし収束先 $x^*$ が $P(x)$ の領域を外れてしまった場合(例えば $x^*=(11, 5.5)$ など)、点列の各点 $x_t$ は $x$ より「悪くない」と判断されていたのに、収束先 $x^*$ においては $x$ よりも「悪い」と判断されることになります。
選好関係の連続性は、このような状況が起こらないということを保証します。つまり、あなたが徐々に良くなるような消費計画を辿っている場合、最終的には急に「悪い」計画にはならないということです。