【経済学】おすすめ名著古典の本ランキング/一覧 – アダム・スミスからピケティまで

経済学の発展

経済学は、その歴史を通じて多くの変遷を経てきました。一般に経済学の始まりは、アダム・スミスによる1776年の著書『国富論』にその起源を見ることができます。スミスは、資本主義工場生産について論じ、経済学の父とも呼ばれています。彼の「分業の利益」や「見えざる手」といった考え方は、現代の経済学にも大きな影響を与えています。その後様々な方向で名著が現れ現在も読まれています。

 

 

 

概要

 

 

現在は原著を翻訳したものの他に多くの解説本などが多く入門も多くあります。ざっと知りたい時はまずは解説入門書などから入るのもおすすめです。

 

 

国富論(アダム・スミス)

 

国富論

アダム・スミスの『国富論』(原題: “An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations”)は、1776年に出版された経済学の古典的な著作です。この本は、現代経済学の出発点と位置付けられており、社会思想史上の古典とも考えられています​。

『国富論』は全5篇から構成されており、各篇は以下のトピックを扱っています:

  • 労働の生産力の改善の原因と、その生産物が国民のさまざまな階級間で自然に分配される秩序について
  • 資本の性質、蓄積、および用途について
  • 国ごとに富裕への進路が異なることについて
  • 経済学の諸体系について
  • 主権者または国家の収入について​

スミスは、個人の私的利益追求が社会全体の利益をもたらすという考えを提唱しており、これは「見えざる手」として知られるようになりました。彼は、分業が生産性を向上させ、社会全体を豊かにすると主張しました。これは、労働者がそれぞれ特定の作業に集中することで技能を向上させ、効率を改善することができるという考えに基づいています。また、資本形成と資本投下によって生産的労働が増加するという理論も展開しています​。

スミスの思想は、それ以前の経済学者たち、例えばジョン・ロック、フランソワ・ケネー、ジャック・チュルゴーなどの影響を受けており、これらの思想家のアイデアを発展させたものです。『国富論』は、その鋭い洞察力と広い視野により、経済学における網羅性の高い作品として評価されています​。

『国富論』はまた、スミスのもう一つの重要な著作『道徳感情論』と関連しています。『道徳感情論』は、道徳と社会秩序に関する倫理学の書であり、経済活動の基盤となる社会秩序について述べています。この2つの著作を組み合わせて読むことで、スミスの思想の全体像をより深く理解することができます。

 

 

 

道徳感情論(アダム・スミス)

 

道徳感情論

 

 

アダム・スミスの「道徳感情論」は、彼の主要な哲学作品の一つで、人間の道徳的行動と社会秩序がどのように感情に基づいて形成されるかを探求しています。この著作は、以下の主要なテーマを探求しています。

  • 共感の重要性: スミスは、人間が共感する能力を持っていることを指摘し、これが他者への慈しみや同情の形成に寄与すると述べています。彼によれば、人間は他人の幸福に関心を持ち、その幸福を目にすることから喜びを得るとのことです。この共感の能力が、人々が道徳的に振る舞う理由の一つであると考えられています​。
  • 「公平なる観察者」の概念: スミスは、人々が自分の行動を「公平なる観察者」という仮想の第三者の視点から評価することによって、良心に従うことができると考えました。この公平なる観察者は利害関係がなく、行為の妥当性を公平に判断する人です。スミスは、このような視点が道徳的行動を導くのに重要であるとしています​。
  • 道徳の一般法則の形成: 人々の共感と社会的経験の積み重ねにより、道徳の一般法則が形成されるとスミスは考えています。この法則に従わない人々は処罰の対象となります。スミスは、公平なる観察者が非難する行為は社会秩序を破壊すると考え、厳格な一般法則の形成を支持しています​。

また、スミスはホッブズの「自然状態=戦争状態」という前提を批判し、道徳の一般法則や社会秩序の確立は感情によって導かれると主張しました。これは、法がない状態でも人間は感情によって正邪を判断できるという考えです​​。

「道徳感情論」の全体像を理解するためには、スミスがどのようにして共感や公平なる観察者といった概念を用いて、人間の道徳的行動を説明しようとしたかを理解することが重要です。この作品は、スミスが経済学者としてだけではなく、哲学者としても深い洞察を持っていたことを示しており、彼の後の著作「国富論」とも密接に関連しています。

 

資本論(カール・マルクス)

 

資本論

 

『資本論』は、19世紀のドイツの哲学者、経済学者であるカール・マルクスによって書かれた重要な経済学の著作です。この書は、資本主義経済システムを深く分析し、その根底にある労働者と資本家の関係、そしてその関係性がもたらす経済的、社会的な影響を探求しています。

 

マルクスは、労働者が生み出す「剰余価値」を中心に、資本主義がどのように機能し、労働者がどのように搾取されているかを論じています。彼は、労働者が自分の労働力を売り、その労働力が資本家によって利用されるという構造を詳細に説明しました。彼によれば、労働者は自分が生きていくのに必要な最低限の金銭しか得られず、その上で余分に働いた労働(剰余労働)によって生み出される価値は資本家の利益となると指摘しています。

 

マルクスは、資本主義が生産のためにあらゆるものを商品化し、人間自体も売買の対象になると論じています。このシステムは、経済的関係の基礎に奴隷制がある社会と表現されています。資本主義の下で、労働者は基本的に自分の労働力しか売ることができず、作り出した商品は資本家によって販売され、彼らの利益になっていくと述べています​。

 

しかし、マルクスの理論には批判もあります。彼の主張は、資本主義が持つ人間の競争心を刺激する力、技術や生産性の向上による商品価値の低下の可能性、労働者が資本家になる可能性、労働者が生み出した商品を自ら販売する可能性など、いくつかの要素を無視しているとされます。現代社会では、インターネットを通じて個人が自らの商品を販売することが容易になっており、資本主義が崩壊することなく機能していることも指摘されています​。

 

マルクスの『資本論』は、資本主義社会の構造と動力に関する深い理解を提供し、経済学、社会学、政治学など多くの分野に影響を与えた重要な作品です。その理論は今日もなお、経済システムと社会構造の理解において重要な参考資料となっています。

 

 

経済学原理(アルフレッド・マーシャル)

経済学原理

アルフレッド・マーシャルの『経済学原理』は、新古典派経済学の基礎を築いた重要な著作です。この書は、経済学の発展に大きな貢献をし、多くの経済学者に影響を与えました。マーシャルは、需要と供給による価格決定のメカニズムを理論化し、現代のミクロ経済学の基礎を構築しました

 

価格理論と需要供給曲線

マーシャルの主要な功績の一つは、価格が需要と供給によってどのように決定されるかを理論化したことです。彼は「マーシャルの需要供給曲線」と呼ばれる曲線図表を用いて、この理論を視覚的に説明しました。この理論によれば、商品の価格は需要と供給のバランスによって均衡価格に落ち着き、結果として資源の最適配分が達成されます。

 

限界効用と消費者余剰

マーシャルは、限界効用の概念を導入しました。これは、追加された財やサービスの単位ごとに得られる効用(満足度)の増加分を指し、消費量が増えるほど限界効用が減少するという逓減の法則を提唱しました。また、消費者余剰という概念を通じて、消費者が商品を買った際に得る満足度を理論化しました。消費者余剰は、実際に支払った価格と支払っても良いと考える価格の差によって定義されます。

 

価格弾力性

マーシャルはまた、価格弾力性の概念を導入しました。これは、価格の変化により需要や供給がどのように変化するかを示すもので、価格が変化すると消費者の購買行動がどのように影響を受けるかを示します。例えば、必需品は価格弾力性が低く、贅沢品は価格弾力性が高いとされています。

 

マーシャル理論の問題点

マーシャルの理論にはいくつかの問題点も指摘されています。例えば、彼の理論は完全競争の市場を前提としており、現実の市場では生じうる様々な不完全性や突発的な変動を十分に考慮していないとされています。

 

『経済学原理』におけるマーシャルの貢献は、古典派経済学から新古典派経済学への移行期にあたり、理論的な枠組みを提供することで経済学の発展に大きく貢献しました。彼の理論は、現代の経済学、特にミクロ経済学の基礎となっており、今日でもその影響は大きいです。

 

経済学および課税の原理(デヴィッド・リカード)

 

経済学および課税の原理

 

『経済学および課税の原理』は、1817年に発表された重要な経済学の文献で、現代経済学の基礎を形成する理論を多く含んでいます​。

この著作では、主に以下の点について論じられています:

  • 投下労働価値説 – 生産物の価値は、その生産に投下された労働量によってのみ決まるという理論です。リカードは、商品の価値を決定する主要な要因として労働量を重視しました​。
  • 賃金生存費説 – 労働者の賃金は、彼らが生存するために必要な最低限の消費財の量によって決まるという考え方です。リカードは、賃金が生存のために必要な費用を超過すると人口の増加を引き起こし、結果的に賃金は生命維持に必要な費用に均衡すると論じました​。
  • 差額地代論 – 同じ投下労働量でも土地によって収穫量が異なるため、最も生産力が低い土地との差額が地代になるという理論です。リカードは、経済成長に伴い地主が富を得ることができると主張しました​。
  • 収穫逓減の法則 – 生産力が低い土地を耕作するようになると、生産力が減少し、同じ土地にさらに労働力を投下しても、得られる収穫量は減っていくという法則です​。
  • 比較優位説 – それぞれの国が自分の最も得意な分野に集中し、生産物を交換することで互いに利益を享受できるという理論です。リカードは、自由貿易が経済成長にとって最適であると考え、保護主義に反対しました​。

 

リカードの経済学は、アダム・スミスの経済学をさらに発展させたものであり、彼の理論は今日でも国際貿易や経済政策の理論的基盤として重要です。

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(マックス・ウェーバー)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は、宗教と経済の関係に関する画期的な研究です。ウェーバーは、プロテスタンティズム、特にカルヴァン派の宗教的教義が、近代資本主義の精神を形成する上で重要な役割を果たしたと論じています​​​​​。

 

ウェーバーは、プロテスタンティズムの中でも特にカルヴァン派の予定説を重視しました。この教義では、神が救済される者を予め定めており、人間の行動はその運命を変えることはできないとされています。このような信仰は、不確実性と精神的緊張を生み出し、信徒たちは神の意志を明らかにするために勤勉に働き、禁欲的な生活を送ることになりました​。

 

この禁欲的な生活態度は、個人の財産や利益の積極的な追求を奨励し、結果として資本主義経済の発展を促進することになりました。ウェーバーは、プロテスタントにとって、自分の職業に励むことが神からの「召命」であり、世俗的な仕事を通じて神の栄光を増すことで、自分が救われているという確信を得られると考えました。このようにして、プロテスタンティズムは、世俗を否定することによって、逆に資本主義の発展を促進したとウェーバーは論じています​。

 

 

 

雇用・利子および貨幣の一般理論(ジョン・メイナード・ケインズ)

 

雇用・利子および貨幣の一般理論

 

ジョン・メイナード・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』は、1936年に発表された経済学の古典的な著作です。この著作は、特に大恐慌時代の経済問題に対する解決策を提供し、現代経済学におけるマクロ経済学の基礎を築いたことで知られています​。

 

ケインズは、当時の古典派経済学が市場は自律的に調整され、長期的には失業が存在しないと考えていたことに対して、現実の経済状況との不適合を指摘しました。彼は「有効需要」が生産水準を決定し、それが失業を発生させると提唱し、政府による財政政策及び金融政策を通じて経済状況を改善し、失業を解消するための理論的根拠を提供しました。

 

ケインズによれば、不景気の時には国債を発行して、政府が公共事業などを行い雇用を創出することで経済を活性化させることができます。これにより企業の売上が上昇し、家計の収入も増えるため、結果的に税収が増え、好景気への循環が生まれると主張しました。また、有効需要の不足は景気後退や失業を引き起こすと考え、非自発的失業を解消するためには政府が公共事業を行うべきだと主張していました​。

 

さらに、ケインズは利子率と利潤率の関係についても重要な見解を示しました。利子率が利潤率より低い場合には、投資家は事業投資を行い経済が活性化します。反対に、利子率が利潤率より高い場合には、投資家は貯蓄を選び、経済が停滞します。このような状況では、中央銀行が利子率を下げることで投資を促進し、景気回復に貢献すると述べています​。

 

ケインズの理論は、現代経済政策においても非常に影響力があり、特に財政政策と金融政策の分野で重要な指針を提供しています。また、彼の理論は世界恐慌とその後の経済回復に関する理解に大きな影響を与えました。

 

 

 

社会における知識の利用(フリードリヒ・ハイエク)

 

 

社会における知識の利用

リードリヒ・ハイエクの『社会における知識の利用』は、経済理論における重要な著作です。この著作では、市場経済と中央指令型経済の比較、分権化の重要性、そして自生的秩序についてのハイエクの考えが詳述されています。

 

ハイエクは市場システムが新たなシグナルを発見し、それに対応する能力を持っていると主張しました。彼によれば、市場は既存の情報を処理するだけでなく、新たな情報を発見する役割も果たしており、これにより社会全体での意思決定が迅速に行われ、経済全体の効率性が向上すると述べています。

 

また、ハイエクは計画経済への批判と同時に市場の効率性についても言及しています。市場が計画経済よりも優れている理由の一つとして、「分権的意思決定」を挙げています。これは、計画経済のように中央政府が全てを決定するのではなく、個人が自分の情報をもとに利益最大化原理に従って行動することを指しています。市場の価格メカニズムによって適切な価格に設定され、柔軟に変化に対応できると述べています。

 

ハイエクはまた、自生的秩序の概念についても強調しました。自生的秩序とは、伝統や習慣、言語など人間の意図しない結果によって作られた秩序です。ハイエクは、この自生的秩序の中で特に個人主義を重視し、イギリス的伝統の「真の個人主義」とフランス的伝統の「偽の個人主義」を区別しました。イギリス的伝統の個人主義は理性への懐疑を基調としており、フランス的伝統の個人主義は理性への信頼を基調としています。彼によれば、伝統・慣習が発達すると、人々の行動が予測しやすくなり、強制力を弱めることで「自由」な社会の実現につながると述べています。

 

ハイエクの『社会における知識の利用』は、市場経済の重要性、特に分権化と自生的秩序の重要性を示す上で、経済学や社会科学における重要な文献となっています。彼の考えは、市場経済と価格システムが社会全体の効率的な運営を可能にするという信念を示しており、経済理論だけでなく、政治哲学や社会哲学の領域においても重要な影響を与えています。

 

 

隷属への道(フリードリヒ・ハイエク)

 

隷属への道

『隷属への道』は、1944年に出版された政治経済学の重要な作品であり、20世紀の保守主義と自由主義、経済学・政治学に大きな影響を与えました​​。この書籍は、特に社会主義に対する批判的な視点で知られています。

 

ハイエクは『隷属への道』で、社会主義が計画経済を通じて「平等な社会」を実現するという理想を掲げている一方で、実際には人々の自由を奪うと強く批判しました。彼は、社会主義における「自由」の概念が誤っていると述べ、本来の自由とは他者や政府、圧政からの自由を意味しているのに対し、社会主義では「貧困からの自由」という限定的なものにすぎないと指摘しています​​。

 

ハイエクによれば、社会主義の計画経済は、異なる個々人のニーズや好みに対応できず、国民の不満を生むことになります。計画経済の行き詰まりは、最終的には独裁者の出現につながると彼は述べています。計画経済により、政府が生産物やサービスの配給を決定するため、市場における競争が失われ、個人や企業による自由な選択が制限されます。これにより、経済統制が全生活の統制へと拡大し、個人の自由が奪われるとハイエクは警告しました。

『隷属への道』は、ファシズムやナチズム、社会主義の本質的な同一性を明らかにしようとする作品であり、これらの思想が経済に対する政治の優越を前提としている点を指摘しています。ハイエクは、計画化とは少数の権力者に対する屈服であり、市場に基づいた自由こそが文明の発展には不可欠であると論じています。

 

 

 

資本主義・社会主義・民主主義(ヨーゼフ・シュンペーター)

 

資本主義・社会主義・民主主義

 

『資本主義・社会主義・民主主義』は、1942年に発表された重要な経済学の著作です。本書では、資本主義の発展が不可避的に社会主義への移行をもたらし、民主主義の本質についての議論が展開されています。

 

シュンペーターは、資本主義が根本的に不安定であり、この不安定さが社会不安を生み出すと指摘しています。彼はこの現象を「社会のアトム化」と呼び、個人が孤立し、主体性を失うことを指しています。彼はまた、資本主義社会において個人主義が進み、婚姻制度や家庭の価値観が崩壊することを指摘しました。

 

シュンペーターは、資本主義の特徴である「新結合」と「創造的破壊」を重要視しています。これらの概念は、経済発展の鍵を握るもので、新しい生産方法や輸送方法、新市場などを組み合わせることで、古く非効率な方法が淘汰され、経済が発展するとされています。しかし、シュンペーターは、これらの概念が経済学では十分に解析されていないと主張し、資本主義が成熟するにつれてその限界に達し、経済発展のペースが減速すると考えました。

 

シュンペーターによると、資本主義の成熟は社会主義への移行をもたらします。この移行は、技術革新が特定の天才による発明ではなく、より計算に基づくものになるため、企業家の役割が減少し、社会主義への傾倒が進むと考えられました。彼は、資本主義の成功(成熟)が社会主義をもたらすと主張し、衰退期の資本主義よりも社会主義が優れていると結論づけました。

 

しかし、シュンペーターの予測は現実とは異なっているとも指摘されています。現代では、資本主義はなおも社会の繁栄に向かい、企業家は数多く登場しています。シュンペーターが考えたような資本主義の衰退や企業家の消失は起きておらず、市場は常に変化し、生活水準は上昇しています。

 

 

経済発展の理論(ヨーゼフ・シュンペーター)

 

経済発展の理論

 

『経済発展の理論』は、イノベーションが経済発展の主要因であると主張する理論です。彼はイノベーションを「通常の経済循環からの軌道変更」と定義し、これが「非連続的な変化」をもたらすと述べています。

 

シュンペーターはイノベーションの5つの例として、新製品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新資源の供給源の獲得、組織の改革を挙げています。また、イノベーションを推進する企業者(アントレプレナー)は、新しいことへの反抗や社会環境からの抵抗に立ち向かう強いリーダーシップを持つべきだと主張しています。

 

 

リスク、不確実性、利潤(フランク・ナイト)

 

リスク、不確実性、利潤

 

 

『リスク、不確実性、利潤』は、経済学において重要な業績をもたらした作品です。この著作は、リスクと不確実性をはっきりと区別し、現実の経済に存在する不確実性こそが企業経営における利潤の源泉であると説明しています​​。ナイトは確率によって予測できるリスクと、確率的事象ではない不確実性を区別し、後者を「ナイトの不確実性」と呼んでいます​​。

ナイトによれば、不確実性には三つのタイプがあります。第一のタイプは「先験的確率」で、これは数学的な組み合わせ理論に基づく確率です。第二のタイプは「統計的確率」で、これは経験データに基づく確率です。最後に、第三のタイプは「推定」で、これは先験的でも統計的でもない状況で、確率を与えることができない特異な状況を指します。ナイトは、企業が直面する不確定状況は、この「推定」に当たると主張しました​​。

ナイトの理論は、完全競争の下では不確実性を排除することはできず、その不確実性に対処する経営者への報酬として利潤が存在するという考え方に基づいています。つまり、経営者は不確実性の中で意思決定を行い、そのリスクを取ることによって利潤を得るということです。

 

資本主義と自由(ミルトン・フリードマン)

 

資本主義と自由

 

『資本主義と自由』は、新自由主義の哲学に根ざし、政府の役割と自由市場の重要性について論じています。フリードマンは、政府の主な役割を国防と小規模な政府運営に限定し、市場経済においては差別が存在しないと考えていました。

 

フリードマンは、政府の過度な介入が社会的不平等を生み出し、市場メカニズムの効率を阻害すると主張しています。彼は政府の役割を最小限にとどめ、市場の自由な交換を促進することを支持しました。彼は、政府の責任は法と秩序の維持、財産権の保護、通貨制度の確立など、経済活動の基盤を整えることにあるとしています。

 

フリードマンの考えでは、自由市場は権利や機会の平等を保証するが、富の平等は保証しないとされています。これは、個人の自由と市場の効率を重視する新自由主義の典型的な思想です。資本主義がもたらす所得格差や経済格差は、多くの場合、短期的な視点から見たものであり、資本主義の長期的な恩恵には目を向けられがちではありません。

 

しかし、フリードマンの思想には批判もあります。新自由主義は、自由放任により貧富の差が広がるという問題を生み出しています。日本でも小泉政権時の新自由主義政策は、労働市場の規制緩和により、派遣労働者の増加と不安定な雇用環境を生み出しました。アメリカでもレーガン政権下での新自由主義政策は、巨大な格差を生んだとされています。

 

 

有閑階級の理論(ソースタイン・ヴェブレン)

 

有閑階級の理論

『有閑階級の理論』は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカの経済学者・社会学者であるヴェブレンによって書かれた社会経済学の古典的名著です​。

 

この著作は、大量消費社会が到来し、大企業体制が確立しつつあった19世紀末のアメリカを背景に、階級間の消費行動とその社会的意義を分析しています。

 

本書では、特に「有閑階級」と呼ばれる上流階級が、財力の誇示や見栄を張るために行う消費行動に注目しています。ヴェブレンは、流行の衣装や娯楽、さらには高等教育に至るまで、これらの消費が他人への見せびらかしであり、社会的地位を示す手段として機能していると指摘しています​。

 

『有閑階級の理論』では、財力の張り合い、衒示的閑暇、衒示的消費、生活の金銭的基準、美的感覚の金銭的基準など、様々な側面から有閑階級の消費行動を考察しています。また、労働の免除や保守主義、古代の性質の保存、武勇の保存など、時代を超えた社会的慣習や価値観についても論じています​。

 

ヴェブレンは、有閑階級が消費を牽引することにより社会的に保護される一方で、下層階級の消費を減少させ、新しい思考や適応に必要な努力を削ぐことを指摘しています。これにより、消費社会に内在する格差の構造が明らかにされます​。

 

大転換(カール・ポラニー)

 

大転換

 

カール・ポラニーの著作『大転換』は、市場経済の形成とその影響について深く掘り下げた重要な作品です。ポラニーは、資本主義の登場と全国市場の形成が、社会に埋め込まれていた経済から、経済に埋め込まれた社会へという「大転換」を引き起こしたと論じています。

 

ポラニーは、「社会に埋め込まれた経済」の性格として「互酬」、「再分配」、「家政」という3つの概念を挙げています。互酬では、社会成員がお互いに贈り物を通じて支え合っていました。再分配では、共同体の中心に贈り物を納め、それを共同体内で再分配することで支え合っていました。家政では、各家族が自給自足の生産を行い、余った作物を互酬や再分配を通じて共同体内で循環させていました。しかし、資本主義の浸透により、これらの慣行が変化し、市場経済が支配的になりました。

 

『大転換』では、全国市場の形成と労働・土地・貨幣の商品化が大転換の要因として指摘されています。全国市場の形成は、国家の干渉によって推進され、労働・土地・貨幣の商品化は、市場経済による弊害として描かれています。ポラニーは、労働、土地、貨幣が本来は商品ではないが、市場経済の下では「擬制商品」として扱われるようになり、それが社会を荒廃させると指摘しています。

 

また、ポラニーは、自己調整的市場経済の拡大に抵抗するために市場規制が必要だと主張しています。彼は、市場経済の拡大によって社会が引き起こされる「悪魔のひき臼」から脱却するために、市場の規制が重要だと説いています。

 

人口論(トマス・マルサス)

 

人口論

『人口論』は、人口増加と食糧生産の不均衡を主張する経済学書です。マルサスは、人口の増加速度は等比数列的に増大する一方で、食糧生産は等差数列的にしか増加しないと主張しました。このため、人口が増えるほど、一人当たりの食料が少なくなり、貧困が深刻化すると考えられます。

 

マルサスは人口増加を抑制する方法として、予防的制限(計画的な結婚や出産の制限)と積極的制限(飢饉、疫病、戦争などによる死亡率の上昇)を提案しました。彼は、予防的制限は性欲を抑えることができないため機能しにくいと考え、結果として人口は自然界の法則(貧困と悪徳)によって抑制されると述べました​。

 

マルサスはまた、当時のイギリスで実施されていた救貧法に対して批判的でした。救貧法は貧困層への援助を行う制度でしたが、マルサスはこの制度が人口増加を助長し、食料価格の上昇や実質賃金の下落につながると主張しました。彼は、救貧法よりも農業への投資を推奨し、国の発展には農業の高度化が必要であると論じました​。

 

『人口論』のマルサスの主張は、現代から見ると一部的外れな点もありますが、当時の社会状況を反映した重要な見解とされています。彼の理論は、人口増加に対する対策として一定の意味を持ち、禁欲や節制の方向への展開を示唆しています。また、彼の理論は現代における政治政策に対する重要な示唆を与えるものです​。

 

人的資本―教育を中心とした理論的・経験的分析(ゲーリー・ベッカー)

 

人的資本―教育を中心とした理論的・経験的分析

 

『人的資本―教育を中心とした理論的・経験的分析』は、人的資本投資、特に学校教育や職場訓練が収入や雇用に与える影響を理論的・実証的に解明する内容です。この書籍では、人間を資本と見なし、投資をすれば見返りがあるという合理的な前提に立っています。自分自身に投資し、生産性を高めることでより高い利益を得られるという考え方が基本です。

 

ベッカーは、人的資本への投資が高い収益率を誇り、長期的に見て他の投資と比較しても大きな差があると指摘しています。例えば、大学教育の長期的な収益率は11-13%とされ、これは製造業など他の投資と比較しても高い数字です。また、教育によってもたらされるメリットは金銭的なものだけではなく、高い人的資本価値を持つ人は良い企業で働くことができ、精神的な幸福や安定した生活にも寄与するとしています。

 

さらに、ベッカーは社会の格差の根本原因を機会の不平等にあると見ています。富裕層と貧困層の格差は、人的資本の価値の格差でもあり、この格差は機会の格差から生まれると述べています。例えば、教育や訓練など人的資本を高める機会が均等に与えられていない場合、格差が生まれやすいというのです。

 

『人的資本―教育を中心とした理論的・経験的分析』は、教育や人材育成、社会経済政策など、広範囲にわたる分野に影響を与える重要な理論を提供しており、ベッカーの経済学の枠を超えた人間行動の分析という新しいアプローチが多くの学者や実務家に影響を与えています。

 

 

 

貧困と飢饉(アマルティア・セン)

 

貧困と飢饉

『貧困と飢饉』は、飢饉の原因となる要素についての彼の革新的な考えを提示しています。この本は、飢饉に関する従来の理解を覆す内容であり、開発経済学における新しい視点を提供しました。

 

従来の考え方では、飢饉の主な原因は食糧供給量の不足にあるとされていました。しかし、センはこの考えに異を唱え、飢饉の本当の原因は食糧を手に入れることができない状況にあると主張しています。彼によれば、食糧供給量が充分にある場合でも、特定の人々が食糧にアクセスできない状況が存在することが飢饉を引き起こすというのです​。

 

この理論の中核をなすのが「交換権原」の概念です。交換権原とは、所有物と交換で入手可能な財の組み合わせからなる集合を指し、個人が保有する資源や商品、労働などと、それを交換することで得られる他の財との関係を示します。飢饉が発生する際には、人々が食糧を購入するための資源や購買力、あるいは食糧を得るための社会的権利を失うことが大きな要因となっているとセンは説明しています​。

 

例えば、ベンガル大飢饉の場合、食糧供給量には大きな変化がなかったにもかかわらず、飢饉が発生しました。これは、食糧価格の急激な上昇や政府の市場介入などが原因で、多くの人々が食糧を購入することができなくなったためです。センは、このような状況を「好況時の飢饉」と表現しています​。

 

センの理論は、飢饉を経済学的な視点から詳細に分析し、飢饉が単に自然災害や食糧供給量の減少だけではなく、経済システムや社会的構造、政策の失敗によっても引き起こされることを示しています。また、民主主義国家では飢饉がほとんど起こらないことも指摘しており、民主主義が基本的な生活を保障する社会的圧力を生み出す効果があると結論づけています​。

 

『貧困と飢饉』は、飢饉に関する新たな理解を提供するだけでなく、貧困問題や社会保障、経済政策に対する洞察をもたらす重要な作品です。センの理論は、経済学における新たな方向性を示し、後の不平等理論にも大きな影響を与えました​。

 

不平等の再検討(アマルティア・セン)

 

不平等の再検討

 

アマルティア・センによる経済学の著作です。この書籍では、一般的な不平等の概念に対する異なる視点を評価し、主に彼のよく知られている「能力アプローチ」に焦点を当てています。センは、不平等が時間を経て立ち続けるすべての社会理論にとって中心的な概念であると論じています。

 

彼は、この基本的特徴が満たされた場合にのみ、一連の社会的配列を提唱する社会理論が妥当であると主張します。不平等という要素を前提として、重要な問いは「何の不平等か?」です。センは、彼が好む平等の概念を提唱しています。これは、機能の能力に基づいています​。

 

本書では、基本的な機能と社会的機能の二種類があります。基本的な機能には、健康であること、栄養を摂ること、住居を持つことなどが含まれ、より複雑な社会的機能には、自尊心を持つこと、コミュニティの生活に参加することなどが含まれます。個人の達成とは、これら実現された機能のセットです。

能力は、個人が最も好む主観的な機能を追求し実現するための実際の選択肢を指します。しかしながら、階級、性別、コミュニティに関連する不平等は人間の自由の範囲を妨げ、機能する能力を減少させます。そのため、良い社会はそのような差別を軽減し、人々の自由を促進するべきです。これは、満足のいく生活の最も価値ある要素です。​

 

21世紀の資本(トマ・ピケティ)

 

21世紀の資本

 

トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』は、資本収益率(r)が経済成長率(g)を超えるという現象を中心に、経済の不平等が増加する構造を分析しています。ピケティは、富裕層がますます豊かになる一方で、中間層以下の経済的状況は改善されず、この格差が拡大していくことを指摘しています​​​​​​。

 

ピケティは、アダム・スミスが唱えた「放任主義」や「トリクルダウン理論」を否定し、この理論に従うと経済格差が拡大すると主張しています。彼は膨大な過去のデータを分析し、経済発展の恩恵が富裕層にしか及ばないことを示しました。その原因として、富裕層が世代を超えて富を受け継ぎ、経済的に固定化されていく現象を挙げています​​。

 

ピケティは、資本収益率(r)が経済成長率(g)を常に上回るという「r>g」の公式を提唱しました。これにより、資本からの収益が労働による収益よりも大きくなるため、資本家はより裕福になり、格差は拡大していくと説明しています​​。

 

また、ピケティは富の不平等を解消するために、累進的な資産税や富裕税の導入を提案しています。これにより、資産を多く持つ富裕層から高率の税金を徴収し、それを貧困層や中間層へ再分配することで、格差の是正を目指しています。