無差別曲線の傾きの絶対値は限界代替率(MRS, Marginal Rate of Substitution)として定義されます。これは、式で表すと次のようになります。
\[ MRS = -\left(\frac{dx_2}{dx_1}\right)_{dU=0} \]
この式は、無差別曲線上で同じ効用水準を維持するために、第1財の消費が微小に減少したときに必要な第2財の消費の微小な増加量を示しています。\(dU=0\) は効用が変わらない条件を表しており、限界代替率は消費者の主観的な財の交換比率、つまり主観的価値評価を表します。
それではMRSがどのように導入されているかを見ましょう。
効用関数 \( U = U(x_1, x_2) \) の全微分は以下のように表されます。
全微分については【全微分】を確認ください。
\[ dU = \frac{\partial U}{\partial x_1} dx_1 + \frac{\partial U}{\partial x_2} dx_2 \]
ここで、
– \( \frac{\partial U}{\partial x_1} \) は \( x_1 \) に対する \( U \) の偏微分で、\( x_1 \) の単位変化が \( U \) に与える影響を示します。
– \( \frac{\partial U}{\partial x_2} \) は \( x_2 \) に対する \( U \) の偏微分で、同様に \( x_2 \) の単位変化が \( U \) に与える影響です。
無差別曲線上では効用が変わらないため、\( dU = 0 \) です。この条件を全微分の式に当てはめると、
\[ 0 = \frac{\partial U}{\partial x_1} dx_1 + \frac{\partial U}{\partial x_2} dx_2 \]
となります。\( dx_1 \) に関してこの式を解くと、
\[ \frac{dx_2}{dx_1} = -\frac{\frac{\partial U}{\partial x_1}}{\frac{\partial U}{\partial x_2}} \]
と求められます。これが MRS の式で、無差別曲線の傾きの絶対値です。
無差別曲線の原点に対する凸性は、第1財の消費量が増大するにつれて \( \frac{\partial U}{\partial x_1} \)(第1財の消費量1単位の効用に対する影響力)の値が小さくなり \( \frac{\partial U}{\partial x_2} \)(第2財の消費量の効用に対する影響力)の値が相対的に大きくなることを意味します。このため、限界代替率の値は、第1財の消費量が増加するにつれて小さくなります。これを限界代替率逓減の法則といいます。限界代替率の逓減は、MRSを \( x \) に関して微分し、その値が負であることを確かめることで検証できます。すなわち、
\[ \frac{dMRS}{dx} < 0 \]
が成立する場合、限界代替率は逓減しています。
例題1
無差別曲線上の限界代替率(MRS)の計算を具体的な数値と簡潔な手順を用いて説明します。
効用関数とその偏微分
計算過程は【効用関数の偏微分の計算】も確認ください。
まず、効用関数 \( U(x_1, x_2) \) として \( U = \sqrt{x_1} \cdot \sqrt{x_2} \) を考えます。この効用関数の偏微分は次のように計算されます。
– \( x_1 \) に対する偏微分: \( \frac{\partial U}{\partial x_1} = \frac{0.5 \sqrt{x_2}}{\sqrt{x_1}} \)
– \( x_2 \) に対する偏微分: \( \frac{\partial U}{\partial x_2} = \frac{0.5 \sqrt{x_1}}{\sqrt{x_2}} \)
( x_1 = 4 \) と \( x_2 = 16 \) を設定した場合、偏微分の計算結果と限界代替率(MRS)は次のようになります。
偏微分の計算
– \( x_1 \) に対する偏微分 \( \frac{\partial U}{\partial x_1} \) の計算
\[
\frac{\partial U}{\partial x_1} = \frac{0.5 \times \sqrt{16}}{\sqrt{4}} = \frac{0.5 \times 4}{2} = 1.0
\]
– \( x_2 \) に対する偏微分 \( \frac{\partial U}{\partial x_2} \) の計算
\[
\frac{\partial U}{\partial x_2} = \frac{0.5 \times \sqrt{4}}{\sqrt{16}} = \frac{0.5 \times 2}{4} = 0.25
\]
限界代替率(MRS)の計算
限界代替率 \( MRS \) は、無差別曲線上で \( x_1 \) の消費が微小に減少したときに、\( x_2 \) の消費がどれだけ増加する必要があるかを示します。これは次の式で計算されます。
\[ MRS = -\frac{\frac{\partial U}{\partial x_1}}{\frac{\partial U}{\partial x_2}} = -\frac{1.0}{0.25} = -4.0 \]
この結果は、無差別曲線上で \( x_1 \) の消費量を1単位減らす場合、\( x_2 \) の消費量を4単位増やす必要があることを示しています。この数値は、\( x_1 \) と \( x_2 \) の間の主観的な交換比率を表しており、効用水準が変わらないための必要な調整量を数値化しています。
例題2
限界代替率(MRS)の逓減の概念を理解するために、具体的な例として、異なる \( x_1 \) と \( x_2 \) の値に対する MRS の計算を行います。これにより、\( x_1 \) が増えるにつれて MRS がどのように減少するかを視覚化します。
効用関数とその偏微分
効用関数 \( U = \sqrt{x_1} \cdot \sqrt{x_2} \) を考え、この関数の偏微分は以下の通りです。
– \( \frac{\partial U}{\partial x_1} = \frac{0.5 \sqrt{x_2}}{\sqrt{x_1}} \)
– \( \frac{\partial U}{\partial x_2} = \frac{0.5 \sqrt{x_1}}{\sqrt{x_2}} \)
MRS の計算と比較
以下の \( x_1 \) と \( x_2 \) の値で MRS を計算して、\( x_1 \) が増加するにつれて MRS がどのように減少するかを見てみます。
1. \( x_1 = 4, x_2 = 16 \)
2. \( x_1 = 16, x_2 = 16 \)
これらの値に対する MRS を計算し、それに基づいて説明します。
まず、これらの値を用いて偏微分と MRS を計算します。
無差別曲線上の限界代替率(MRS)の変化を示す二つの具体例を比較し、\( x_1 \) の増加が MRS に与える影響を解説します。
例 1: \( x_1 = 4 \), \( x_2 = 16 \)
– 偏微分 \( \frac{\partial U}{\partial x_1} \): \( 1.0 \)(\( x_1 \) の単位変化が効用に与える影響が大きい)
– 偏微分 \( \frac{\partial U}{\partial x_2} \): \( 0.25 \)(\( x_2 \) の単位変化が効用に与える影響が小さい)
– MRS: \( -4.0 \)(\( x_1 \) を1単位減少させるためには \( x_2 \) を4単位増やす必要がある)
例 2: \( x_1 = 16 \), \( x_2 = 16 \)
– 偏微分 \( \frac{\partial U}{\partial x_1} \): \( 0.5 \)(\( x_1 \) の増加により効用への影響が減少)
– 偏微分 \( \frac{\partial U}{\partial x_2} \): \( 0.5 \)(\( x_1 \) と \( x_2 \) の影響が均等になる)
– MRS: \( -1.0 \)(\( x_1 \) を1単位減少させるためには \( x_2 \) を1単位増やすだけで良い)
この二つの例から、限界代替率逓減の法則が観察できます。つまり、\( x_1 \) の消費量が増加するにつれて、同じ効用水準を維持するために必要な \( x_2 \) の増加量は減少します。
これは、第1財の消費量が増加することで、その限界効用(偏微分)が減少し、したがって同じ効用を維持するために必要な \( x_2 \) の増加量が小さくなることを意味します。このように \( x_1 \) が増えると MRS は小さくなるため、消費者は \( x_1 \) と \( x_2 \) の間でより少ない \( x_2 \) を必要とするようになります。