経済学研究科(修士)院試での研究のカテゴリー

院試での分野

院試の勉強を始めると、これまでの授業でのミクロ・マクロ・計量、または〇〇経済学と言った授業科目名というものを取ったり、教科書でそのようなものを読んだりしても、いざ論文を読もうとすると、そこに並んでいるのは「応用ミクロ」「構造推定」「実証マクロ」「マクロ理論」など、授業の区分とは少し違う言葉だったりします。

このズレは、理解が浅いからではなく、そもそも院試が問う共通言語と、研究が進むために必要な論文の方法論が別物だから起きます。院試では科目で基礎体力を測り、研究ではどの作法で、どのタイプの問いを扱うかで論文が分類されていきます。

 

 

研究の分け方はより先に作法がくる

では、論文はどのような軸で整理されているのでしょうか。大雑把にいえば、研究分野の整理には少なくとも 2つの軸があります。ひとつは「何を扱うか」という 対象(テーマ)軸(労働、公共、医療、教育、環境・エネルギー、開発、都市…)。もうひとつが、論文の分野ラベルに直結しやすい「どう掘るか」という 作法(方法)軸です。研究の現場では、この“作法”の違いがはっきりしているため、「応用ミクロ」「実証マクロ」「構造推定」といった呼び方が、分類の言葉として前面に出てきます。

作法(方法)軸の代表例を、入口だけ挙げるとこうなります。理論でメカニズムを詰める(理論研究)。時系列やマクロデータで推定して動学的な反応を見る(VAR等)。ある政策やショックの 因果効果を、差の差(DiD)、IV、RDD、イベントスタディのような識別戦略で推定する(応用ミクロ計量で中心的)。あるいは、企業行動や需要などをモデル化して推定し、反実仮想(counterfactual)まで回す(構造推定)。そして、割り付けそのものを研究設計に組み込む(実験・フィールド実験)——といった具合です。

ここで重要なのは、同じ対象でも「対象×方法」で論文の顔つきがまるで変わることです。たとえば「最低賃金」を題材にしても、個票データでDiDやRDDを組む研究もあれば、労働市場をモデル化して構造推定し、別の政策を入れた反実仮想を回す研究もある。あるいは、理論で「なぜその政策が雇用に効く(効かない)のか」を詰める研究もある。授業の「〇〇経済学」は対象で括ることが多い一方、論文の分野区分にはこの“作法の違い”が強く反映されやすい——この感覚が持てると、読み始めのスタートで迷いがなくなります。

なお、こうした分野整理の参照枠として便利なのが、American Economic Associationが整備している JEL分類です。JELは経済学文献を分類するための標準的なコード体系で、論文・書籍・Working Paper等で広く使われています。大分類だけ見ても、たとえば C(数量的方法)、D(ミクロ)、E(マクロ)、G(ファイナンス)、N(経済史)といった区分があり、「この論文はどの分野区分の議論として位置づくか」を把握する助けになります。

 

大枠の分野

研究的に分けると論文は下記のような分野になります。もちろん更に多角的に分けたり、追加的なこともできますが、論文や、大学院の教員はどれかであったり、複数またがっていることがあります。テーマを選ぶ際は大学院教員、興味がある論文が分野分けをした場合、ざっとどのような分野分けなのか意識しながら確認してみましょう。

 

• マクロ理論(macro theory)
経済成長、景気循環、金融摩擦、国際マクロなどを理論で掘る括り(実証は主役でない)。

 

• マクロ計量・実証マクロ(macroeconometrics / empirical macro)
VAR、ローカルプロジェクション、推定DSGE、時系列・パネルのマクロデータで推定・検証する括り。

 

• 応用ミクロ計量(applied microeconometrics / applied microeconometrics)
個人・世帯・企業などのミクロ(個票等)データを用い、差の差(DiD)、IV、RDD、イベントスタディ、マッチング等の準実験的な識別戦略によって因果効果を推定し、政策評価など。環境・エネルギー、開発、労働、教育、医療・健康、公共・財政、都市などがあある(もちろんこれらでもマクロ寄り、理論などもある)。

 

• ミクロ理論(microeconomic theory)
ゲーム理論、契約理論、メカニズムデザイン等の理論中心。

 

• 計量経済学(理論)(econometric theory)
推定量・識別・漸近理論、因果推論の方法論そのものを作る括り(「応用」ではなく方法の中核)。

 

• 産業組織・構造推定(industrial organization / structural econometrics)
企業行動・市場構造をモデル化して、需要推定や構造推定で反実仮想(counterfactual)を回す括り。
※「応用ミクロ」とは、識別の流儀が違う別カテゴリとして語られがち。

 

• 実験経済学・フィールド実験(experimental economics / field experiments)
ラボ実験や現地実験。開発分野だと RCT を中心に語られることも多い。

 

• 行動経済学(behavioral economics)
心理・意思決定のバイアスを理論+実験+実証で扱う括り(手法は混ざる)。

 

• 経済史(economic history / cliometrics)
歴史データを使った実証(DiD等)も使うが、対象とデータが“歴史”でひと括りにされる)。

 

・ファイナンス(finance / financial economics)
資産価格(asset pricing:株・債券・為替などの価格形成やリスクプレミアム)と企業財務(corporate finance:資本構成・投資・M&A・ガバナンス等)を中心に、銀行・金融仲介や市場の取引制度も扱う分野。