経済学修士で身につく専門知識・研究力

経済学研究科の修士課程に進学する大きなメリットの一つは、経済学についての専門知識を深めるだけでなく、自ら研究課題を設定し、理論やデータを使って分析し、その結果を論文としてまとめる力を身につけられることです。

学部でもミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学などを学びますが、大学院では、それらをより高度な水準で学びながら、自分自身の研究テーマへ応用していきます。

修士課程を通じて身につけられる代表的な知識・能力として、次のものが挙げられます。

1.経済学の専門知識をより深く学べる

修士課程では、学部で学んだ経済学を土台として、より高度で専門的な理論や分析方法を学びます。

たとえば、ミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学といった経済学の基礎となる分野についても、学部より数学的・理論的に踏み込んだ内容を扱います。

さらに、大学院では基礎的な経済理論を学ぶだけではありません。

労働経済学、公共経済学、産業組織論、国際経済学、金融、開発経済学、都市経済学など、自分の研究テーマに関連する分野について専門性を高めていくことになります。

実際に東京大学大学院経済学研究科でも、ミクロ・マクロ・計量経済学に加え、一般均衡理論、ゲーム理論、実証マクロ経済学、公共経済、国際金融、産業組織、労働経済など、幅広い専門分野が用意されています。

そのため修士課程では、「経済学を広く知っている」という段階から一歩進み、特定の研究テーマについて、理論と先行研究を踏まえて専門的に議論できる状態を目指せることが大きなメリットです。

2.計量経済学・統計分析のスキルが身につく

経済学研究では、理論だけでなく、実際のデータを用いて仮説を検証することが重要になります。

そのため修士課程では、計量経済学や統計学についても、学部より高度な分析方法を学ぶことになります。

研究分野によって使われる方法は異なりますが、たとえばマクロ経済学の実証研究では、時系列データを利用した分析やVAR・SVARなどの手法が使われます。大学院科目でも、構造VARやマクロ経済における動学的な因果効果の識別・推定などが扱われています。

また、政策や制度が経済に与える影響を分析する研究では、単に二つの変数の相関を見るのではなく、「本当にその要因によって結果が変化したのか」を明らかにする因果推論が重要になります。

回帰分析に加えて、操作変数法、差の差法、回帰不連続デザインなど、研究課題に応じた分析方法を学ぶ機会があります。また研究分野によっては、経済主体の行動を経済モデルとして表現し、そのモデルをデータから推定する構造推定なども用いられます。MITの大学院レベルの計量経済学でも、因果推論と構造モデルの双方が扱われています。

こうした学習を通して、単に統計ソフトを操作するだけではなく、

「どのようなデータを使い、どの分析手法を選び、結果をどこまで因果的に解釈できるのか」

を考えられるようになることが、経済学修士で身につく重要な能力の一つです。

3.学術論文を読む力が身につく

研究を行うためには、自分が興味を持ったテーマについて、これまでにどのような研究が行われてきたのかを把握する必要があります。

そのため大学院では、多くの学術論文を読むことになります。

経済学の主要な研究成果は英語で発表されることが多いため、研究を進める中で英語論文を読む機会も増えていきます。

重要なのは、単に英語を読めるようになることだけではありません。

論文を読みながら、

  • その研究では何を問題としているのか
  • 既存研究と何が違うのか
  • どのようなデータや理論を使っているのか
  • どのような方法で仮説を検証しているのか
  • その研究にはどのような限界があるのか

といった点を読み取る必要があります。

一橋大学大学院経済学研究科でも、修士課程で身につける能力の一つとして「最先端の学術論文や研究発表を理解する能力」を掲げています。

多くの論文を比較しながら先行研究を整理する文献レビューを行うことで、自分の研究が既存研究の中でどのような位置にあるのかを考える力も身につきます。

4.研究テーマを設定する力が身につく

修士論文を書くうえで難しいことの一つが、「何を研究するのか」を決めることです。

興味のあるテーマを見つけるだけでは、研究にはなりません。

たとえば、

「最低賃金に興味がある」

という段階から、

「最低賃金の引き上げは、特定の産業や年齢層の雇用にどのような影響を与えるのか」

といった、実際に分析可能な**研究課題(Research Question)**へ落とし込んでいく必要があります。

さらに、その研究課題について先行研究を調査し、

問題設定 → 仮説構築 → データの選択 → 分析手法の選択 → 結果の解釈

という形で研究全体を設計していきます。

早稲田大学大学院経済学研究科の修士論文審査でも、「研究課題に学術的意義があること」「研究の学術的位置づけが明確であること」「分析技術が適切に論文へ反映されていること」などが審査基準になっています。

つまり修士課程では、与えられた問題を解くだけでなく、自分で問いを見つけ、その問いを検証可能な研究へと組み立てる力を身につけることができます。

5.修士論文を通して総合的な研究力が身につく

修士課程で学んだ知識や分析方法を総合的に活用する機会が、修士論文です。

修士論文では、自分で研究テーマを決め、先行研究を調べ、必要な理論やデータを選び、分析を行い、その結果を一つの論文としてまとめていきます。

数週間で終わるレポートとは異なり、研究計画の作成から論文完成まで、長期間にわたって一つのテーマに取り組むことになります。たとえば早稲田大学大学院経済学研究科では、指導教員の決定、研究指導、研究計画書の提出などを経て修士論文を完成させる仕組みになっています。

その過程では、分析が思ったような結果にならなかったり、研究方法を変更したり、追加のデータを探したりすることもあります。

そうした試行錯誤を重ねることで、

論理的に考える力、長期的にプロジェクトを進める力、学術的な文章を書く力、研究成果を人に説明する力

などを総合的に鍛えることができます。

また、多くの経済学研究科では、修士論文の提出だけでなく、口頭試問や研究発表も行われます。早稲田大学の修士論文審査でも、研究内容を簡潔かつ明確にプレゼンテーションし、質問に的確に答えられることが評価項目に含まれています。

そのため、修士論文に取り組むことは、単に一つの論文を書く経験ではありません。

一つの問題を自分で設定し、必要な情報を集め、適切な方法で分析し、その結果を論理的に説明するところまでを一貫して経験できることに、修士課程で研究する大きな価値があります。