【経済学研究科】大学院では具体的には何をする? (修士/博士課程) – コアコース内容から修論まで

大学院での経済学スタート

経済学の大学院1年生(修士1年)は、国や地域に関わらず、基本的には大学院問わずに同じような内容をやります具体的には、ミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学、そして経済数学が中心となりますが、これは経済学がスタンダードかされ、日本であれ、世界であれ画一化されています。

これらの分野は経済学の基礎を形成し、学生たちに分析的な思考と定量的な技術を学びます。その後修士1年目の後期や修士2年辺りから専門の授業で生徒各それぞれの分野のコースを取っていきます。

そして、経済理論の理解を深め、それぞれの修士論文について仕上げていきます。

 

基本的な大学院1年目のコアコース

経済学の大学院修士1年目のコアコースについて、一般的には次の科目が中心となっています:

  • ミクロ経済学: 個々の消費者や企業の行動や市場の仕組みを研究する。
  • マクロ経済学: 国家や地域全体の経済活動や経済政策に関する分析。
  • 計量経済学: 経済理論の検証や経済データの分析に用いる数学的手法。
  • 経済数学: 経済理論や計量経済学に必要な数学の技術。

これらの科目は、国際的に標準化された学問として、世界のどこであっても同じ理論を学ぶ基礎となっています。1年目の前期・後期では、これらのコア科目を身につけることを目標として取り組むことが多いです​。

 

筋トレしながら、試合をこなすイメージの1年目

この1年目の大学院のコースでは中心がミクロ、マクロ、計量となるのですが、これらは大学学部とも重複するところが多いです。何が違うかというと基本的には数学、統計的なレベルが違ってきます。

また、大学院入学前にMath Camp(マスキャンプ、下記に詳細)という数日間だけの学部の復習やこれから院で使う数学を少し行う授業があったり、通常の学期期間にも経済数学の授業がありますがイメージ的にですが

・数学の授業が筋トレみたな位置づけで、ミクロ、マクロ、計量という試合に臨むような感覚です。

基礎体力の数学力を上げていきそれぞれの経済学の授業(試合)でやれることを増やして闘っていく。このような流れです。

 

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Math Camp(マスキャンプ) / 経済数学

大学院に入ったばかりの学生が必要とされる数学的技能や知識を強化するための集中的な準備プログラムです。通常、経済学の研究では高度な数学が必要とされるため、Math Campは学生が経済学の理論やモデルを深く理解し、研究で必要とされる数学的手法を適切に適用できるようにすることを目的としています。

Math Campの内容は以下のようなものが含まれることが多いです:

微積分(Calculus):経済学における最適化問題や動的システムの分析に不可欠です。

線形代数(Linear Algebra):経済モデルにおけるシステムの解析や計量経済学でのデータ分析に使用されます。

最適化:(Optimization):クーンタッカー条件など

確率論と統計学(Probability and Statistics):経済データの解析や計量経済学の前提に必要です。

Math Campは通常、学期が始まる数週間前に行われ、新しい大学院生が学術的な基盤を固め、必要な数学的スキルを身につけるのに役立ちます。プログラムは博士課程大学院生によって指導されることが多いです。

 

また、学期中も経済数学の授業は行い、内容は下記のようなものです。

  • 実数(Real Numbers)
  • 実解析(Real Analysis):連続性、微分可能性、積分などの概念が含まれ、経済モデルの挙動を分析する際に重要。
  • 対応関係(Correspondences): ある集合から別の集合への関連付けを表しますが、一つの要素が複数の要素に関連付けられる場合も含まれ、ゲーム理論や市場分析において重要。
  • 凸集合と(準)凹関数(Convex Sets and (Quasi-)Concave Functions):凸集合は、任意の二点間の線分がその集合内に含まれる集合で,、凹関数は、その上位集合が凸集合である関数で、これらは最適化問題や消費者の選好理論で重要。
  • 微分(Differentiation)
  • 最適化(Optimization)
  • 動的計画法 (Dynamic Programming): 動的計画法は、複雑な問題を一連の簡単な部分問題に分割し、それらを段階的に解決する方法。経済学では、在庫管理、資源配分、最適消費経路の決定など、時間を通じた意思決定問題に適用。
  • 負の(半)定値行列、負の定値行列(Negative (Semi-)Definite Matrices):は、任意の非ゼロベクトルに対して二次形式が常に負になる行列、経済学では、最適化問題の解の安定性や市場の均衡状態の分析に使用。
  • 確率過程(Stochastic Processes): 確率過程は、ランダムな変動を含む現象をモデル化し、分析するための数学的なフレームワーク。経済学では、金融市場の価格変動、消費者行動の不確実性、または経済成長のランダムな影響などを理解するために広く使われ、特定の確率過程の例には、マルコフ連鎖、ブラウン運動、ポワソン過程など)。
  • 分離超平面定理(Separating Hyperplane Theorems):分離超平面定理は、異なる集合を分離する超平面の存在を保証する定理。消費者理論や生産理論で市場の均衡を理解するために使用 )。
  • 包絡線定理(Envelope Theorem):制約条件の微小な変化が最適解の価値にどのように影響するかを示し、経済学では、政策変更や市場条件の変化が経済主体の利益にどう影響するかを分析)。
  • 不動点定理(Fixed-point Theory):不動点定理は、特定の条件下で、関数が自分自身にマッピングする点、つまり「不動点」が存在することを保証。経済学では、市場均衡の存在証明やアルゴリズムの収束性の分析に使用)。

 

大学院準備・大学院レベル経済数学書籍

経済学のための最適化理論入門

経済理論における最適化

動学的最適化の基礎

経済数学教室シリーズ

現代経済学の数学的方法

 

ミクロ経済学

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基本的には下記の通り学部でもやった内容が大学院でもやります。ただし、数学的なディマンドが多くなります。取り敢えずどの大学院でも証明がやたらとでてきます。

価格理論

  • 消費者理論:
    • 効用と選好: 消費者の選択をモデル化するために、どのように効用関数や選好関係が使われるか。
    • 予算制約: 収入と価格によって消費者の選択がどのように制限されるか。
    • 需要曲線: 価格変動に対する消費者の反応を示す。
  • 生産者理論:
    • 技術と生産関数: 企業がどのように入力を出力に変換するか。
    • コスト関数と供給: 企業がどのようにコストを最小化し、どのように供給量を決定するか。
    • 利潤最大化: 企業の目標と意思決定。
  • 市場構造と均衡:
    • 完全競争市場: 多くの買い手と売り手がいる市場。
    • 独占市場と寡占市場: 市場の権力が少数の企業に集中している場合の分析。
    • 一般均衡: 経済全体での供給と需要の均衡。
  • 市場の失敗:
    • 効率性と公平性: 経済的資源の分配に関する考察。
    • 市場の失敗と政府の介入: 外部性、公共財、情報の非対称性などによる市場の失敗。

ゲーム理論

  • 基本概念とモデル化:
    • プレイヤー、戦略、利得: ゲーム理論における基本要素。
    • ゲームの種類: 協力ゲームと非協力ゲーム、ゼロサムゲームと非ゼロサムゲーム。
    • ゲームの表現: 展開形ゲーム(ゲームツリー)と標準形ゲーム(利得行列)。
  • 均衡と戦略的安定性:
    • ナッシュ均衡: プレイヤーが相手の戦略を予測し、最適な反応戦略を選ぶ概念。
    • 均衡の洗練: 完全均衡、サブゲーム完全均衡など、より現実的な状況に合わせた均衡の概念。
    • 繰り返しゲームと戦略的動態: 長期的な相互作用における戦略と均衡。
  • 情報と不確実性:
    • 完全情報と不完全情報: ゲームにおける情報の構造とそれが戦略に及ぼす影響。
    • ベイジアンゲーム: 不確実性と信念をゲーム理論に統合するアプローチ。
    • シグナリングとスクリーニング: 情報の非対称性を扱う戦略。

 

大学院準備・大学院レベルミクロ経済学書籍

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マクロ経済学

 

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マクロ経済学はミクロ、計量に比べて学部と大学院でのギャップがでてくると言われています。そもそも先程のミクロのように学部でやったことのレベルを上げてやるということでなく、マクロの場合は、学部でやったことが大学院では出てこず、新しいことが始まることが多いです。ミクロの基礎づけとなる動学マクロです。

    • 範囲
      • 学部レベル: 基本的なマクロ経済学の理論、モデル(IS-LMモデル、AD-ASモデルなど)、短期・長期の経済分析が中心です。
      • 大学院レベル: より高度なモデルが導入され、時間を通じた経済の動的な振る舞いや期待形成、マクロ経済政策の長期的な効果などについて学びます。
  • 数学と統計学の使用
    • 学部レベル: 基本的な代数、微分、グラフ理解が中心です。
    • 大学院レベル: 実証分析、微分方程式、最適化理論、確率論など、より高度な数学が要求されます。計量経済学の手法も重要になります。カリブレーションなども行います。

それぞれの大学院でもやることの配分が変わってきますが、一例で下記では大学院マクロで取り上げられるトピックを書いておきます。

  • ソロー・モデル(Solow Model):
    経済成長理論の一つで、資本蓄積、労働人口の増加、技術進歩が経済成長にどのように影響するかを解析します。このモデルは、長期的には経済が定常状態に達し、一人当たりの所得や一人当たりの資本の量は変化しなくなると予測します。
  • ラムゼイ・モデル(Ramsey Model):
    消費者が無限の未来にわたって消費と貯蓄の計画を最適化するという設定の下で、時間の経過とともに経済がどのように成長するかを分析します。消費者は現在の消費を犠牲にして貯蓄を行い、将来的な消費のために資本を蓄積します。
  • 重複世代モデル(Overlapping Generations Model):
    異なる世代の人々が同時に生きており、若い世代が働き、古い世代が退職して生活するという状況をモデル化します。このモデルは、社会保障、国の借金、世代間の富の移転などの分析に使用されます。
  • 内生的成長理論(Endogenous Growth):
    経済成長が経済システム内部の要因、特に人的資本、イノベーション、技術進歩によってどのように生み出されるかを説明します。この理論は、経済成長が外部から与えられるものではなく、経済内部のプロセスによって決定されると考えます。
  • 不確実性下での一般均衡(General Equilibrium under Uncertainty):
    市場の参加者が将来の不確実性をどのように処理し、その不確実性が商品の価格や市場の均衡にどのように影響するかを分析します。リスクを避ける行動や保険市場などがこの理論の分析対象となります。
  • 景気循環理論(Business Cycles):
    経済がなぜ拡大と収縮を繰り返すのか、その原因や機序を理解するために用いられる理論です。景気循環は、技術的な変化、政策決定、外部ショックなど様々な要因によって引き起こされるとされています。この理論は、経済の短期的な動きを説明し、安定化政策の効果を分析するのに役立ちます。
  • 資産価格理論(Asset Prices):
    金融市場における資産の価格形成メカニズムを分析します。投資家の期待、リスク許容度、市場の不確実性などが資産価格にどのように影響するかを考察します。株式、債券、不動産など、様々な資産クラスがこの理論の分析対象です。

これらの理論やモデルは、経済の動きを理解し、政策決定に役立つ重要なフレームワークを提供します。各モデルは、特定の経済的状況や問題に特化しており、それぞれが経済学の異なる側面を照らし出しています。

 

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計量経済学

 

計量経済学もミクロと同様、基本的にコアコースでやる計量経済学は学部でやる内容からスタートです。簡単にまとめると下記のような範囲です。

  • 基礎統計学と確率論:
    • 確率分布、期待値、分散、共分散などの基本的な統計概念
    • 確率変数、確率分布の理解
  • 推計理論:
    • 推定量の性質(不偏性、一致性、効率性)
    • 最尤推定法やモーメント法などの推定手法
  • 計量経済モデル:
    • 線形回帰モデル、多変量回帰分析
    • 時系列分析、パネルデータ分析
  • 検定理論とモデルの診断:
    • 仮説検定、回帰診断、多重共線性、異質性、自己相関の検出と対処
  • 実践的なデータ分析:
    • 経済データの収集と処理
    • 実際の経済データを用いた実証分析
  • 高度なトピック:
    • 因果推論、機械学習の応用

 

基本的には基本的な統計、推定、回帰分析から入るのですが、ここでも数学的、統計的にはレベルが上がってきます。コアコースではパネルあたりまでをやって、因果推論や時系列までしっかりやるところはありますが、コアコースから外れた他の計量経済学の授業で分けて行うところも多くあります。この辺りはシラバスなどを見てみましょう。また最近は機械学習も計量経済学の中で含まれてきました。

計量経済学は学部も大学院もオーバーラップするトピックが多いですが、計量経済学で教えられることは昔とは変わってきています。その辺りの情報も入れておきましょう。

 

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