【書評】科学ジャーナルの成立(アレックス・シザール) – 科学論文はどのように誕生したか?

 

科学ジャーナルにはいくつかの深刻な問題があります。まず、プレデタリー・ジャーナル(搾取的学術誌)の増加が挙げられます。これらのジャーナルは、高額な掲載料を著者から徴収する一方で、適切な編集や査読を行わず、低品質や偽の研究を公開することが多いです。この結果、信頼性の低い科学情報が広まってしまいます。

次に、査読プロセス自体にも問題があります。査読は一貫性がなく、重要な情報を見落としたり、個人的な偏見で判断が行われることがあります。この一貫性の欠如は、同じ論文が同じジャーナルに再投稿された場合に異なる評価を受けることからも明らかです。また、査読システムは膨大な投稿数に圧倒され、急いで査読が行われることが多く、時には欠陥のある研究が公開されてしまうこともあります。

さらに、論文の撤回も増加しており、2023年には10,000以上の研究論文が撤回されました。これは、不正や誤りの多さを示しています。

 

 

 

このように科学ジャーナルは様々な問題を持ちつつも、どのような歴史をたどっているのでしょうか。

 

本書「科学ジャーナルの成立」 ではハーバード大のシザールは19世紀における科学誌の発展とその政治的、社会的な影響について探求しています。科学誌がどのようにして知識の伝達と評価の中心的な役割を果たすようになったかを詳述しています。19世紀は科学的知識の爆発的な増加の時代であり、科学誌はその知識を広めるための主要な手段となりました。

本書では、科学誌の誕生と進化について詳述されています。17世紀にその原型が登場した科学誌は、19世紀に入ってその形態と役割が大きく変わりました。シザールは、フランス科学アカデミーとロイヤルソサエティなど、フランスとイギリスの主要な科学機関の影響を取り上げ、これらの機関が科学誌をどのように利用していたかを説明しています。

科学誌は、個々の研究者が自らの研究成果を発表し、その正当性を認められる場として機能しました。これは、科学者のキャリア形成において重要な役割を果たし、科学的な評価システムが確立されるきっかけとなりました。シザールは、著者と審査員の役割がどのように進化し、科学的知識の正当性を保証する仕組みがどのように確立されたかを分析しています。

また、科学誌は科学的知識を広く一般に公開する役割を果たしましたが、同時にその知識が専門家のみによって評価されるという閉鎖的な側面も持ち合わせていました。この二重性について、シザールは科学的知識の公開と秘匿のバランスがどのように取られていたかを考察しています。

さらに、学術出版の政治的側面についても言及しています。科学誌の発展は単なる知識の伝達手段にとどまらず、政治的な影響も及ぼしました。科学的な発見や理論は、国家の威信や政治的な力と結びつくことがありました。シザールは、科学誌がどのようにして政治的な目的に利用されたか、またその結果として科学の公共性や信頼性がどのように影響を受けたかを探っています。